コラム
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2010/2/1
806 聞ける人
「今、頭取になっているあの人は、若い時から知っています。その時から将来は偉くなると思っていました」と、経営者Tさんが話してくれました。
「何故、その人が将来頭取になると思ったのですか」と尋ねると、「あの人は、人の話を一所懸命に聞いてくれた。自分のことの話をする人は多くいても、人の話を聞いてくれる人は多くはいないものです」。それが理由でした。
意外な答えですが、周囲を見渡しても、真剣に話を聞いてくれる人は少ないことから真実だと思います。
故石原裕次郎さんがアメリカを訪問した時に、ある冊子に寄せたレポートを読んだことがあります。ケネディ大統領が暗殺された直後のニューヨークの風景をレポートしたものです。そのレポートの最後にニューヨークで出会った年配の女性の意見として、次のようなことが書かれていました。
「ケネディ大統領が暗殺されて本当に悲しい。だって、今までケネディ大統領ほど私達の意見を真剣に聞いてくれた大統領はいなかったもの」というものでした。
今でも人気のあるケネディ大統領は、生前、人の話を聞ける人だったのです。話が上手い人はそれなりにいますが、話を聞くことができる人は余りいません。
偶然ですが、ケネディ大統領も、この頭取も、同じように人の話を上手く聞くことができる人だったのです。外の話を聞けるのは、相手の話の中から何かを学ぼうとする姿勢があるからです。相手から学ぼうとする態度は話している相手にも分かりますから、もっと大切な話を聞かせてくれることになります。
つまり相手の話を上手く聞ける人とは、相手の持っている知識を上手く引き出せる人のことなのです。
自分が言うだけの人は相手から学ぶことはできません。話している相手が、何かを与えようと思っていても、肝心の自分が相手から学ぶ姿勢を持っていないと受け取ることはできません。
尊敬する中村天風氏が修行を続けている時の師匠カリアッパ師から言われたエピソードがあります。
中村天風氏が「コップを二つ持って来なさい。一つのコップにお湯を入れなさい。もう一つのコップに水を入れなさい。水をお湯の入ったコップに注ぎなさい」と言われました。
天風氏は「そんなことをしたらコップから水が溢れてしまいます」と反論したのです。
カリアッパ師は「それが今のお前の気持ちだ。どれだけ良い教えを施そうとしても、お前の心の中は、不必要な知識で一杯になっている。私がお前に何かを教えても心に受け入れる余地はないだろう。自分のコップのお湯を空にしてきなさい」と言われたのです。
そうなのです。自分が一番偉いと思っていると、誰からも何も受け取ることはできないのです。心を空にして相手の話を聞いて受け入れること。それが自分を大きくする秘訣です。この頭取も、ケネディ大統領も同じような心の持ち主だったと思います。