コラム
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2021/10/4
1855    書類を届ける仕事

先日から若い頃に担当した仕事を書き出していると不思議に思い出した出来事があります。会社から地域の有力者宛に案内文を届けることになりました。内容は何だったか忘れましたが、設備計画に関する会社からの挨拶文だったように思います。課長から「今日、別件があるので一緒に行くことが出来ないので、極力会って説明してくるように」と指示を受けました。軒数にすると5軒程度だったと思います。地域の有力者ですから、これまで何度か訪ねているので自宅は分かっていました。順調に訪問と面談を続けられたのですが、最後の一軒が留守だったのです。

この訪問先は市長宅だったので、平日の昼間は留守に決まっているようなものでした。玄関の呼び鈴を押しても出て来ないので、自宅のポストに投函してこの仕事を終えました。

会社に戻ってから上司に報告しました。

「予定していた皆さん全員に届けてきました」

「ご苦労さん。何か意見はなかったか」

「特段意見、要望はありませんでした」

「ご苦労さん。ところで今日、市長には会えたのか」

「いえ市長は不在だったので会えていません。そのため自宅のポストに届けました」

「訪問して面談して渡せと言わなかったか」

「はい、会うように指示がありましたが、時間を変えて三回、訪問したのですが不在続きだったのでポストに入れました。メッセージを書いて添付していますから、訪問の趣旨は分かってくれると思います」

「俺は会ってこいと言ったはずだ。ポストに入れても良いとは言わなかったぞ。もし書類がなくなっていたら届けたことにならないぞ。今すぐ行って持って返って来い」

記憶を呼び覚ますと、こんな会話だったと思います。

やや不満に思いながらも直ぐに車を走らせて、市長宅のポストの中の書類を持ち帰りました。上司から「あったか」と尋ねられたので「(当然)ありました」と答えました。

「では今から市役所に行くから準備しろ」と指示があり、上司と一緒に市役所に向かいました。その時「最初から市役所を訪問すれば問題はなかったのに」と思いました。

市役所を後にしながら車中で「自宅を訪問させたのは、もし市役所でも市長不在で預けた場合、市長が書類を見た時に何か質問があれば電話がかかってくる。それが自宅からであれば行かなければならない。自宅を知らなかった場合、説明に伺えないだろう」という説明がありました。通信手段に隔世の感があり時代背景が違うので今ではそうならないと思いますし、やや道理が通っていないように感じます。

この時の上司の気持ちは「市長の自宅ぐらい知っておくこと」「万が一の時のことを考えておくこと」「仕事で楽をしないこと」を教えてくれたと思います。

大きな仕事ではありませんが、何故か会社の資料を市長宅に届けた時の失敗を思い出したのです。この時の教訓からでしょうか。今でも訪問相手が不在の場合に書類を投函しておくことを躊躇することがあります。大事なことは直接資料を渡して説明することが仕事の基本だと教えてくれたことも追記しておきます。