コラム
コラム
2021/9/29
1852    購買の仕事その2

20歳代の当時、購買の仕事をするにあたって、定年を迎えるベテランのTさんから引継ぎを受けました。Tさんは真面目一筋できっちりと仕事をする人でした。購買の仕事ぶりを見ていると余りにもきっちりしているので「とても自分にはできないなぁ」と思ったほどでした。

そんなTさんが定年退職することになり、購買の仕事は「几帳面な人が引き継ぐのだろう」と思っていたところ、上司から「片桐さん、Tさんの仕事を引き継ぐように」と指示があったのです。予期していなかったのは購買の仕事は僕には合っていないと自負していたので、上司も同じ意見だろうと思っていたのと、もう担当業務がいっぱいで「これ以上担当業務を持つのは無理」な状態だったからです。恐らく当時、4人分の仕事を担当していました。

担当業務を書き出すと、優に4人分の仕事をしていたのは間違いありません。上司から「購買の仕事をやってもらう。やれるな」と言われたのですが、その時は少し不満顔をしていたのでしょう。続けて「片桐君は何人分の仕事ならやれるのか?」と質問されました。

そこで「今でもう4人分の仕事を任されていますから、やれるのは4人分ぐらいです」と答えました。他の人よりも担当業務が多いことを知らないはずですが、念のため知ってもらおうとして「4人分」と伝えたのです。

そうしたところ上司から「たった4人分でいっぱいなのか。片桐君だったら『10人分ぐらいの仕事は余裕でできます』と言うと思っていたよ。意外と自分の能力を低く見ているんだな」と言われたのです。

そう言われると引くことはできませんから「もちろん余裕で大丈夫です。やります」と承諾したのです。苦手と思っていた購買の仕事ですから、できれば引き受けたくなかったのですが「10人分ぐらいやって見返してやろう」と思ったのです。

それからは遅くまでの時間外労働と休日出勤をやることになりました。当時のことですから時間外申請はしませんでした。所謂、サービス残業の大盛、特盛ですが、当時は当たり前のことだったのです。

一か月後、上司が言いました。「片桐君、この前、Tさんと会ってきたよ。元気にしていると思ったら元気がなくしょげていたよ」「Tさん、元気がないがどうかしたのですか」と尋ねたところ、こんな返事が返ってきました。

「私は購買のプロだと思っていました。この仕事に関しては素人の片桐君に引き継いだのですが、専門的なので苦労しているだろうと思っていました。きっとわからないことが多くあるので『電話をして聞いてくるだろう』と思っていました。後輩を助けなければと思っていつも電話の前で待っていたのですが、一向に電話が鳴りません。そっと元同僚に聞いたところ『片桐君なら平然と仕事をしているよ』という話を聞きました。『私の長年の経験は一体何だったんだろう』と思って落ち込んでいたのです」と話していたことを伝えてくれました。

僕は「真面目なTさんらしい思いだ」と思うのと、「電話して仕事のやり方を聞けば良かったかな」と思いました。

ただTさんに聞くこともなく仕事が出来たのは、「たった4人分か。10人分ぐらいできると言うと思っていたよ」と言われたことへの叛骨心があったからです。一か月で仕事をモノにできたのは「見返してやる」という気持ちを持っていたからです。仕事への自信が生まれつつあった若き日の仕事の思い出です。

何人分かの仕事を持つと最初は処理していくのに時間がかかりますし、仕事に追われるような気持ちになります。しかし不思議なもので徐々に慣れてくるのです。仕事を組み合わせるとすき間の空間が出来ることを感じるのです。どんなに忙しいとしても、組み合わせ方によってすき間が生まれます。石と石を袋に詰めた時に空間が出来るイメージです。その空間の部分を違う仕事に充当するのです。たくさんの仕事を抱えたとしても、意外とすき間があることに気づきました。

この仕事のすき間を活用することで、人並み以上の仕事を担当しても同時に遂行させる方法を体得したのです。後に生かされることになります。