コラム
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2021/9/28
1851    広報の仕事

「広報担当は机に座っていてはいけない。何もなくても外に出ろ」

「どこも行くところがなかったら、記者クラブで座っていろ」

「記者クラブでコーヒーを出してくれるようになれば一人前」

「人を訪ねる時は仕事の話をしてくるのではないぞ。雑談をしてくるように」

「会社外の人をたくさん知るように。人を知らなければ仕事はできないよ」

「困った時に助けてもらえる関係をつくりなさい。そのためには何もないのに訪ねても相手をしてもらえるようになっておくこと」 

以上が広報担当の時に先輩から教えられたことです。

机に座っていることが仕事ではなく、人と会うことが仕事と理解するまで時間がかかりましたが、経験を重ねた今では人脈が最大の財産だと分かります。どれだけ人を知っているのか。困った時に助けてくれる人がいるのか。電話で依頼することで仕事を終わらせられる人脈を持っていることが大事なことです。

極論ですがルーチンワークは誰でもできますが、非常時の仕事は誰でもできるものではありません。非常時は広範囲で定義することは難しいのですが、ここでは解決までに時間的余裕がない事案、絶対にこちらの言い分で解決しなければならない事案、表に出てはいけない事案を水面下で解決することとします。

以上はどれも解決が難しい事案です。解決する方法は人脈以外にありません。これらは論理的に解決できるものではなくて「お願いする」だけのものです。しかし「お願い」して「はい分かりました」と言って動いてもらえること、対応してもらえることが難しいのです。

それは日頃からのつきあい、信頼関係がある、貸しがあるなど深い人脈を築いているからできるものなのです。非常事態の事案を解決する方法は、それ以外はあり得ません。

会社として報道されたら困る緊急の事案が発生した時、新聞社を訪問して初対面の記者に名刺を差し出して「初めまして、片桐と申します。広報を担当していますが、お願いがあります。先ほど、御社が把握した弊社の事案ですが、できれば記事にしないでください」と言って「はい、わかりました。言う通りにしましょう」と言ってくれるでしょうか。その時、初めて名刺を交換する相手がこちらの「お願い」を聞いてくれるはずなど、天地が逆さになっても絶対にあり得ないのです。事案を書かないで欲しい経緯を説明しても聞いてくれることはありません。何故なら会社限定の理論は社会では通用しないからです。新聞記者が見逃してくれることはありません。

こんな時のたった一つの方法が人脈なのです。理屈抜きで「お願い」が通用するのは人脈だからです。何もない時でも記者クラブに立ち寄ると、雑談の相手をしてくれる関係を築いていること。記者から取材などで電話をかけてくれる関係になっていること。こちらから電話をかけて無理を聞いてくれる関係性を構築していること。これらのことが非常時に「お願い」を聞いてくれるたったひとつの方法なのです。

広報の仕事、担当の能力は非常時になって判明します。もっと言えば広報だけではないと思いますが、人脈はよい仕事をするために欠かせないものです。そんな大事な人脈は長い時間を必要するものであり、平時に交流しておくことで築けるものなのです。