コラム
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2021/9/17
1846    文書管理の仕事

総務の仕事に文書担当という比較的地味な仕事があります。最初は枝葉で軽い仕事だと思っていたのですが、実際は根幹にかかわる重要な仕事なのです。昨今の公文書改ざんの問題は事件として取り扱われているように、会社でも改ざんは犯罪行為に直結していることを、当時、学びました。

「決裁した文書の内容を差し替えることは犯罪だ。万が一にでも決裁を受けた文書を訂正する必要が生じた時は更改りん議を起案すること」と教えられました。りん議書は紙と紙に文書担当の押印をして取り外せないようにします。そうすることで、もし立案者が差し替えをした時は、後に発覚するように予防しておくのです。このように文書担当の割り印をしておくことで差し替えが出来なくなりますし、どうしても差し替える事例が発生した時には、担当者が更改りん議を起案することになります。組織として不正を許さない歯止めが割り印であり文書担当の役割なのです。

もう一つの大事な役割が文書規定に基づいた審査をすることです。ビジネス文書には形式があります。というよりも大部分のビジネス文書は定型的なものです。文芸作品や読んでもらえる展開のものではありません。書く形式が決まっているものがビジネス文書でありりん議書なのです。文書担当は起案されたりん議書の形式を審査するもので、文書規定に沿って作成されていないものは起案者に修正を求めます。起案者はりん議書を修正することをとても嫌がります。何故なら、立案者に修正理由の説明をすることや、場合によってはりん議の差し替えをしなければならないからです。起案者にとっては文書の訂正は恥ずべきことであり上司に説明する場合は理由説明が必要となるので、それは避けたいと考えるからです。

そのため厳格に文書審査をする文書担当は嫌がられます。「形式の注意だけだからりん議の内容に関係ないので修正する必要はあるのか」「現場を動かすことが会社にとって大事なので文書なんか関係ない」などの意見、小言を言われました。

しかし仕事と意思決定の過程を残し、その仕事の結果であり証拠となるのがりん議書だけなのです。りん議書は誰が意思決定したのか、意思決定に至った経緯はどうだったのかなど、将来に残す唯一のものなのです。

そして怖いことは、後にりん議書を見た人が優秀な人であれば「そのりん議書を書いた人の能力が分かりますし、そんなレベルのりん議書の審査を通した文書担当のレベルの低さ」を見抜いてしまうのです。これはプロのビジネスパーソンとして恥ずかしいことです。

そして昨今、社会に波紋を投げかけている公文書の差し替えの問題があります。きちんとした会社組織として社会文書やりん議書の差し替えはあり得ないことですし、専決権限者からの差し替え指示はあり得ないことです。それでは組織の信頼が崩れますし、唯一の証拠とりん議書が信用できないなら、それは仕事でなくなってしまいます。仕事ではない仕事をすることはプロとして恥ずかしいことですし、組織の信頼を失わせるものになります。

20歳代の文書担当者の時代に、当時の上司にそのことを厳しく教えられました。

「文書規定のどこに載っているのか」「文書規定を読んでいるか」「起案者に修正依頼をする場合は文書規定で説明しなさい」など指導を受けました。文書審査の仕事は軽いものではなくて歴史を正確に刻むものなのです。りん議書を改ざんして伝えるべきことが嘘であるなら、会社の歴史が嘘になりますし、自分の仕事も嘘になってしまいます。そしてそんな会社は社会から信用されなくなります。りん議書を作成する人、そのりん議書を審査する文書担当の役割は、正しく意思決定の過程を後々に伝えることを使命とした重要な仕事なのです。公文書の記録の重要性は当時も現代も変わるものではなく、将来も変わるものではないと確信しています。