コラム
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2021/9/13
1842    購買の仕事

仕事に関する懇談の機会があり、若い頃に鍛えられた上司と仕事の思い出を話しました。

購買の仕事です。購買とは会社で必要な物品の購入や、他部門から依頼された工事の見積もり徴収と査定を行う仕事です。査定は仕事を知らなければ、そして慣れてこないと難しいのです。現場や作業内容を知らなければ人日や工数が分からないので査定のしようがありません。仕事を簡略化するために積算資料や建設物価などの資料を元にして人件費や作業内容を調べて査定していくのですが簡単ではありません。

そこで前任者の仕事を参考にすることや見積依頼者に聞いて概要を把握し、査定をしていくことになります。当時は参考値として見積額の80パーセントまで査定をして決裁を得ることにしていました。当初は専決権限者がその査定内容で決裁をしてくれていたのですが、二か月目に入ると決裁してくれなくなりました。最初は「印鑑の押し忘れかな」と思って、再び決裁箱に入れておいたのですが、何度提出しても印鑑を押さずに返却されてきました。

「何度も押し忘れなんておかしいな」と思いながら上司に決裁書類を持っていったのです。

査定の説明をしても決裁してくれません。その次に「片桐君、もう購買査定の仕事にも慣れてきた頃だろう。ほとんどの工事査定は80パーセントになっていることはおかしいと気づかないのか。工事によって査定のパーセントは違ってくるのは当たり前のことなのに、そのことに気づかないような仕事をしてはいけない。若いうちは手を抜いて楽をしていたら成長しないぞ。見積依頼の現場を見に行くことや工事事業者をよんで見積内容を聞かなければ事実は分からないぞ。仕事は同じことを漫然としてはいけない」と指導されたのです。

仕事は慣れてくると要領が分かってくるので同じことを繰り返す場合があります。

決裁してもらった方法を繰り返すだけでよいので楽だからです。しかし現場は常に違いますし、見積書の人日や工数が本当かどうかは分かりません。

一度でも、査定して契約をした工事現場を見に行って見積もりの人日や工数通りに工事が行われているか確認することが仕事なのです。契約者が現場に行くことで請け負った事業者は「誤魔化すことはできない」と思うので、もし誤魔化していたとしても次回からは正しい数字の見積もりを提出することになります。

契約金額を下げる交渉をするだけでなく現場に緊張感を持たせて「不正はできない」と思わせること、それが仕事なのです。

発注会社の契約者も工事担当者も現場確認に行かなければ、やがて請負事業者は「この会社は現場確認に来ないので人日や工数をあげても大丈夫」と思うようになっていくことも考えられます。それでは会社に損失を与えますし、正しい契約をしているとはいえません。

当時の僕は購買の仕事は性に合わないと思っていたので、現場に行くことはなく、前任者の査定のパーセントを乗じて同じように査定していました。上司は一か月間だけは見逃してくれていたのですが、二か月目に入るとその仕事ぶりに不満を感じて指導してくれたのです。

性に合わない仕事でも、会社の仕事としてそれがある限り真剣に取り組むべきです。手抜きの仕事は会社に損失を与えますし、仕事を通じての自己の成長につながりません。会社にとっても自分にとっても大きなロスになります。

購買の仕事を担当したのは数か月でしたが、恐らくその上司は「多分、やりたくない仕事だろうが、嫌な仕事に対処できるかどうか考える機会を与えよう」と思っての業務分担だったと思います。それが気づきとなり性に合わない仕事でも「嫌だなぁ」と表情に出してはいけないことや、会社利益について考える機会となりました。