コラム
コラム
2021/9/7
1838    ブドウの話

経営者と話している中でブドウの話が出てきました。生産者が手塩にかけて育てたブドウのことです。

「市場に並んでいるブドウがありますが、市場に並ばないブドウもあります。木から落下して傷んだブドウは出荷できないのです。しかし商品になるブドウも、売れないブドウも生産者が一所懸命に愛情を込めて育てたものです。値段がつくかどうかは他人が決めることで、生産者にとってそこに違いはありません。通常通り商品として市場に届くブドウは流通経路に乗ったもので対価がもらえます。

しかし商品価値のないブドウは流通されないのです。量が確保できればジュースなどに加工されるルートがありますが、数が少なければ自分で食べるか処分することになります。 そこでこの生産者は傷んでいるブドウを生かすために、友人達を招いて提供しているのです。

生産者の友人達は、その友人やお世話になった人へのお土産としてブドウを渡していきます。僕が話をしている経営者に届いたのは、生産者と関係者の思いが詰まって人から人へと渡ってきたものです。価格と言う価値はないかもしれませんが、生産過程も実るまでの時間も手間暇も、そして味も同じでありご縁のある人が関わって届けられたブドウには「関わった人の愛情が詰まっている」のです。

だから人のご縁によって届けられたブドウの価値を分かってくれる人に食べてもらいたいですし、生産者の思いを大切にする気持ちを持って欲しいのです。市場経路に乗って届けられたブドウも、人から人へと届けられたブドウも同じ価値を有していると思うのです。

経営者は「生産者の気持ちとブドウをつないでくれた人の気持ちを理解できる人に届けたいと思いますし食べて欲しいのです」と話してくれました。

人がつなぐものの価値は多くのことが関わった価値とも言えます。この後、海底熟成ワインの話も聞かせてもらったのですが、この価値は海に沈めて熟成のために寝かした時間の価値なのです。良い時期を待つという時間の価値が商品に乗っかっているのです。時間のかかるもの、手間暇がかかるものは価値があるのは、携わっている人のかけた時間の価値でもあるのです。

一般的に生産に時間のかからないものよりも、人が関わった時間が長いものの方に価値があります。生産に要する時間とは、生産者の愛情と熱意、お客さんに美味しいものを届けたいと願う思いの強さの時間に他ならないのです。簡単にできることよりも、困難を克服して得るものの方に価値があります。多くの人が関わって継続して研究開発を行い誕生させたものには価値があります。ワインを熟成させる年月が長いほど価値が高まるのは、何十年も人が関わって管理してきた人と時間の価値なのです。

「片桐さんはこのブドウの価値を分かってくれると思います」と言って提供してくれました。そして「生産者の苦労も気持ちも分かってくれると思います」と話してくれました。ブドウが届くまでの物語を話してくれたのは、生産者の思いを伝えるためだと理解しています。

「もちろん、このブドウの物語は理解できますし、生産者が時間を掛けて育成してきたものの価値は分かります」と答えました。

ニコッと笑って経営者は「やっぱりね。生産者に『片桐さんに届けるよ』と言ったところ『県会議員の片桐さんだね。知っているのですから』と言われました。是非、紹介しますから」と伝えてくれました。

たかがブドウの話ですが、生産者の気持ちと関わっている人の思いを感じられる物語であり、他の商品や製品にも当てはまるものだと感じています。