コラム
コラム
2021/7/16
1808    判断を遅らせない

電気自動車の開発の主導権争いに関する小説「デッドオアアライブ」を読みました。日本が水素自動車を次世代型にするために主導したいとの思惑と欧米、中国の電気自動車を主流にする戦略があり、世界市場を握るため日本の大手自動車会社が水素から電気へと方向転換していくことになります。

しかし電気自動車は他のメーカーやベンチャー企業が参入できることから国内での主導権争いが起こります。その駆け引きと企業人の電気自動車に将来を賭ける思いが伝わってくるストーリーです。

電気自動車は部品が少なくバッテリーの性能が勝負なので、自動車の大手であっても優位性はなく、むしろ系列企業を再編成または整理する必要に迫られるため大きいことが不利に働くことになります。ここにチャンスが生まれるのです。

自動車メーカーは電気自動車の開発に参入するかしないか検討しますが、保守的な常務取締役は「参入しない」と判断を下します。「参入しない」と判断する理由は、「今のガソリン車の市場を守れたらよい」「市場の動向が分からない電気自動車に参入して勝算はあるのかね。絶対に勝てる根拠を示したまえ」「そんなに参入したければ、君が社長になった時にやればよい」などの理由で提案を却下します。保守的な役員が会社、組織を滅ぼす道に誘導することを描いています。

参入前に勝算がある事業はありません。社会や市場が本格化していて、リスクはあるけれど「やらなければ将来はない」ことを感じ取り、勝負をする覚悟を持てることが新規参入につながります。勿論、参入したからと言って絶対に勝てるとは言えませんが、ガソリン車にしがみついていたら、新しい市場で戦うことはおろか市場から退場を促されることになります。

業界トップのメーカーの役員は「あの会社には勝負する度胸があるはずはない」と状況を見抜きます。しかしこの弱小メーカーの中から、企画と熱意と行動力を持った社員が立ち上がります。「このままでは会社がなくなってしまう」と危機感を持ち、「数年後に常務はいなくなるから良いかもしれないが、これからも会社に残る我々はどうなるのか」と思い、行動を起こします。常務を飛び越えて副社長に直訴することになります。

副社長は説明を聞き社員の提案を受理して「後は俺に任せろ」と引き受けます。その後の役員会で電気自動車への参入を決定させます。

役員会で決定されたのは用意周到な根回しです。社内役員は勿論のこと、取引銀行の同意を取り付け、さらに業界トップメーカーのメインバンクにも賛同させるための動きを取っていたのです。

常に社会と市場は生きています。変わらないように見えますが、決して同じことの繰り返しではなく流動しているのです。流れに逆らっても堰き止められるものではありません。その先が見通せなくても、信頼できるところの情報と人脈を信用して、後れを取らない時期に前向きな判断を下すことです。

大手は小さなメーカーと比較して市場を眺める時間があります。小さなメーカー、地方自治体も同じですが、先を見通す力と後れを取らないための判断が求められます。「判断をしないで平穏な結果がある」というようなことは絶対に止めるべきです。