コラム
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2021/6/21
1790    グリース

ミュージカル映画の「グリース」は今でこそミュージカルで最高の映画など言われています。1979年に公開された当時、僕は高校3年生でした。主演のジョン・トラボルタは前作の「サタデー・ナイト・フィーバー」で一気にスターになり、続いて「グリース」に出演したのです。今でこそ評価を得ていますが公開当時は「アイドル二人が主役の映画」「踊っているだけでストーリーに乏しい映画」「オリビアニュートンジョンはどう見ても高校生には見えないし演じるには無理がある」などの酷評があったように思います。映画評論家と高校生の間には価値の違いがあったようです。

いつの時代でも経験ある評論家と若い人の間には溝があることが分かる事例です。今では僕たちの世代が若い人の価値を理解できないでいます。

さてこの映画の評論家の評価は別として、最初から最後までとにかく楽しくて「青春映画」そのものでした。永久に青春が続くようなエンディングは楽しいのですが、実は高校生活最後のパーティの場面で、もう戻らない時を描き寂しさも感じさせてくれました。

この最後の場面では、映画の主役と友人達は「決して戻ることのない時代をみんなで楽しもう」という気持ちを伝えたかったように思います。この演技が出来たのは、高校生ではなくて20歳を超えた大人だったからだと今では分かります。20歳代から高校時代を振り返ることで、楽しくて懐かしい思いを演じることができたのです。

人は経験したことを物語として人に伝えることができますが、経験していないことは感情を移入して人に伝えることはとても難しいのです。主演の二人と友人達はもう高校生ではなかったけれど、高校生の経験を思い切り放出したような気がします。だからイキイキと楽しく演じてられたので、青春の楽しさが高校生に伝わったと思います。

ところで社会の評価とは分からないもので、あれから約40年が経過した今では名作に数えられているのです。確かに「You're The One That I Want」や「We Go Together」も今では名曲であり、今聴いても当時の新鮮さはそのままです。映画とはおもしろいもので、名作は頭の中で映像と共に音楽も流れますから、身体の中のどこかで生き続けているように感じます。

当時はレコードかカセットテープの時代でしたからテープで何度も聴いたことを覚えています。また映画館以外で見る機会はなく、何度も観ることはできませんでした。たった一度観ただけで印象に残っています。今ではインターネットで観ることができるので観ることがありますが、当時の同じように青春スターとミュージカルを楽しめます。

さて名作になったのはトラボルタがその後、青春スターから演技派としての階段を上ったことや、歌手のオリビアニュートンジョンが映画に出演していた珍しさも影響があるように思います。その人のその後の人生が輝いていれば、若い頃の物語も輝く存在になるように思います。

映画「グリース」から、もう約40年が過ぎています。戻ることは出来ないけれど、当時を振り返ることはできます。そして振り返ることが出来るのは嬉しいことだと気づきます。

そこには物語が出来ているからであり、その物語は今も続いていることが分かるからです。

映画という物語は素敵ですし、人生という物語もまた素敵なのです。