コラム
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2021/6/14
1785    大和街道を歩く

現代から過去にタイムスリップする映画やドラマがあります。そんな映画をつい観てしまうのは、過去に起きたことを知ってみたいという好奇心と、あり得たかもしれない別の人生を想うからでしょう。ドラマでは「JIN―仁―」が歴史とフィクションを組み合わせた秀作で、洋画では「天使のくれた時間」がもう一つの人生を経験したことから、今の人生を変えてしまう物語です。

江戸時代、紀州から参勤交代などで江戸に向かう歴史街道が大和街道です。今は国道になっているので往時を感じるところは少ないのですが、江戸時代を感じられる見所がいくつかあります。

大和街道を歩く

和歌山市京橋から京橋御門を経て一里塚へと道は続きますが、途中に歴史を感じるところがあるのです。道幅、道路の形態、一里塚の松の木、石碑などを見て感じ取ることが出来ます。しかし最も大事なことは、物語として語れる人に案内してもらうことです。知識だけではなく物語を語れる人と歩くことでタイムスリップ体験をすることができます。

僕は紀州語り部のMさんに依頼して一緒に歩いてもらいました。勉強熱心なので知識と現場経験が豊富なことは分かっていますが、何よりも凄いことは故郷を大好きなこと。そこから出てくる言葉に込められた情熱です。故郷が好きなことと情熱がタイムスリップに誘ってくれる要因なのです。令和3年6月12日から見事に江戸時代にタイムスリップさせてくれました。これが異次元体験だと思いました。

不思議なことに説明を聞くとセピア色に見える道路。軒先が道路まで約1メートル延ばして日よけや雨よけにしていたことを語っている時に見えてくる違った光景、それが歴史の道を歩いていることを感じさせてくれます。

Mさんがその時代に参勤交代に参加していたように語る言葉を聞いて、僕も参勤交代の中を歩いているような感覚になってきました。参勤交代の1,000人の行列と共に歩いているように感じてきました。

語り言葉が凄いのは江戸時代だけではなくJR紀伊中ノ島を見学した時のことです。この駅舎は昭和10年に建てられた建築物ですから、この歴史を語る時は昭和の時代にタイムスリップさせてくれるのです。プラットホームの跡に立った時には、まるで列車が走って来るような感じがしてくるのです。

一つの時代だけではなく江戸と昭和の時代を感じさせてくれる語り口調は、タイムマシンのようです。普段通り慣れている道なのに、これまで観たことのない歴史街道に感じさせてくれたのです。映画の世界のような魔法にかけられました。映画の世界はCGが魔法ですが、歴史街道を歩くときは案内人が故郷を想う心と案内している人に想いを伝えたいと願う熱意が魔法です。魔法の言葉を聞きながら大和街道を歩きました。すっかりこの歴史の道の魔法にかかったのは言うまでもありません。

和歌山県にある大和街道は、今では歴史に埋もれています。往時を感じさせる箇所が少なく自分達で歩くだけでは感じることは難しいと思います。大和街道の魅力は魔法の言葉と共に歩くことです。故郷が大好きな人と一緒に歩くとタイムスリップ体験ができます。それは映画の世界を体験しているようです。大和街道を体験して語れる物語が増えました。