コラム
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2021/6/9
1784    尺八の世界

和歌山県橋本市出身で世界の舞台で活躍している尺八奏者の辻本好美さん。和の芸術を世界に伝えてくれています。令和3年6月5日も県民文化会館にてコンサートが開催されたので鑑賞してきました。尺八の概念を打ち破っている奏者だとは知っていましたが、これほど凄いとはと驚きと共に感動しました。

第一部はオーソドックスな選曲で、第二部は挑戦的なものでした。演奏衣装も和服から洋服に変えること、ウッドベースとピアノとのセッションなど極めて挑戦的なスタイルで、まるで自由に楽しめるジャズコンサートのように感じました。これが「創造的破壊」ではないかと思うほどでした。このコンサートは文化活動をしている人達に声を掛けていたのですが、コンサート終演後とその翌日に感想を聞かせてくれました。

「驚きました。感動でした。最高のセッションでした。友人にも声を掛けていたのですが、最初の反応は『尺八の演奏でしょ』という消極的なものでした。しかし『絶対にいいから』と熱心に誘って一緒に鑑賞したのです。終演後の感想は『凄く良かった。案内してもらって嬉しいです。尺八がこんなに素敵な音を奏でるとは思っていませんでした。その次も辻本さんの演奏があれば誘ってください』と伝えてくれました」と話してくれたのです。

また「尺八で洋楽を演奏するなんて奇想天外です。そして素晴らしい演奏でした。型にとらわれない自由な演奏に感動です。若い人の感性は凄いですね。有田市でもコンサートを予定しているのですね。絶対に行きます」という感想も聞かせてくれました。

コロナ禍でコンサート活動が限られている期間、辻本さんは熊野古道や串本町などを訪ねたそうです。そこで観たことや感じたことを曲にしています。

「The Way I am」は不安でいっぱいになることがありますが、その先に光があることを表現した曲です。不安から抜け出して光に辿り着こうとする心身の動きを感じました。

「いと〜純〜」は、コロナ禍で不安と葛藤があったけれど、気づきがありシンプルな自分、純粋に生きたい思いを表現した曲です。コンサートの最後を飾るのに相応しい希望を感じさせてくれる演奏でした。

そして「シンクロニシティ」は奏者の思いの詰まった曲に感じました。叔父との会話で「意味のある偶然の一致の連続」だという言葉を曲にしたものです。運命は決まっているものではなく、意味のある偶然が重なったもの。そう考えると自らの行動が楽しくなります。自分の運命は自分の行動によって日々創られているものであり、良い偶然が一致すれば現実になると思うからです。

良い偶然とは人との出会い、時流に乗ったとき、チャンスが訪れたときなど、自ら行動していると引き寄せてくれるものがあります。じっとしていては、立ち止まっていては訪れない美しい偶然があります。それを掴むことで自分も周囲も運命が好転する。私がすべきことは運命を好転させることである。そんな感覚が伝わってきました。

仕掛けは第二部の冒頭です。台詞がなく突然、「Another day of sun」が尺八のリードで演奏されました。映画のオープニングと同じように、一気に辻本さんの世界に誘ってくれました。奏者が世界に挑戦している躍動を感じました。和から洋へと展開は、日本から世界に向かっている今を伝えてくれました。常に挑戦することが人生だと知らせてくれたようです。