コラム
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2021/6/2
1780    男は黙ってサッポロビール

その昔、当時でも伝説となっていた入社面接の噂があったことを思い出しました。

ある男性が入社試験で面接を受けている時のことです。

会社の面接官から学生に質問が相次ぎました。ところが何を質問しても学生は言葉を発せず、一言も答えません。質問をしても答えないので面接官は諦めて「もう結構です。面接を終わります」と告げました。そうすると学生は「男は黙ってサッポロビール」と答えました。

その学生は見事に内定を取ったという結果です。学生が面接を受けていたのは「サッポロビール」だったのです。

都市伝説かもしれませんが、その昔、語り継がれていました。その時「そんな回答で内定を取れるなら簡単だな」など話し合っていたのですが、面接の時にずっと黙っていることは、「簡単にできるものではない」と思いました。

「男は黙ってサッポロビール」のコマーシャルは現代では受け入れられないと思いますが、当時、俳優の三船敏郎が男らしさを強調した内容のコマーシャルであり、男は苦しいことがあっても、言いたいことがあってもぐっと堪えて、黙っていることが男の生き様とされていたのです。それが男の生き方としての見本のように伝えられ、この面接の受け答えの話へとつながったのだと思います。

かつて「沈黙は金、雄弁は銀」と評価されたように、男がペラペラしゃべることはみっともないとされていました。今でもこの「黙って」の価値は高いと思いますが、使い分けることが求められているように感じます。

時には人を説得するために語れることが大事ですし、時には約束を守るためにも「黙っている」ことも大事です。ところが「堪えて黙っている」ことは実に難しいことです。

腹が立つことや言いたいことがあっても、場合によっては「ぐっ」と堪えることが求められることがあります。誰かが勝手なことを言っている場合、「何を勝手な噂を流しているんだ」と言いたくなりますが、社会的立場や男として自分に値打ちを下げることは出来ないと考えた時「黙って耐える」ことを選択します。今でもその「黙って」の価値を理解する人はいると思います。

太平洋戦争開戦時の連合艦隊司令長官だった山本五十六の、あまりにも有名な言葉を思い出します。

苦しいこともあるだろう。

言いたいこともあるだろう。

不満なこともあるだろう。

腹の立つこともあるだろう。

泣きたいこともあるだろう。

これらをじっとこらえてゆくのが、

男の修行である。

耐えることが古い価値だと思われるような現代ですが、立派な人は事あるごとに「ぐっ」と耐えています。「男は黙ってサッポロビール」ではないですが、「男は自分のことを自慢しないで、黙ってやるべきことをやる」気持ちが大事だと思うのです。