コラム
コラム
2016/7/14
1651    バスの運転手さん

50歳を過ぎてから子どもの頃からの夢を実現された人います。その人の夢は観光バスの運転手さんです。50歳過ぎまで上場企業で働いていたのですが、50歳を超えて自分の人生を考えたそうです。「このままで良いのだろうか」と考えた末に行きついた結論は、「会社を辞める」ことでした。安定した企業で、しかも定年まで10年を切っていたことから最後まで勤めたいと言う気持ちもあったようですが、夢を実現したいという思いが安定よりも勝ったと聞きました。

家族に話したところ最初は反対したのですが、夢を実現させることに家族の理解をもらったので、会社の人事に退職のお願いをしたのです。会社からは慰留されたのですが、翻すことはできないと思い、人事は退職願いを受け取ってくれたのです。

退職直後はこれからの生活に不安を感じたそうですが、夢の実現が目前に迫っていることから行動に出たのです。大型二種の免許証を取得するために自動車学校に行ったところ、一回で免許を取得したそうです。大型車の免許を取得していたこともあるのですが、一回で大型二種免許を取得したと聞いた時は、さすがに驚きました。初めてバスを運転するのだから何度か試験に落ちるだろうと思っていたからです。ところが試験官からも「とても上手です」と評価してもらい、またバス会社が実施した安全運転の適正検査でも満点近い得点を取り、社長が驚いていました。社長からは「こんな得点を取った人はこれまで一人いただけです。しかもベテランだから、新人がこんな高得点を取るなんて信じられないことです」と話してくれました。

50歳を超えていても新人ですから見習いからスタートしました。このバス会社では、最初は路線バスに乗務してバスの運転に慣れることから始めます。三カ月路線バスに乗務して、バスの運転に慣れることと、運転手としての適正を見るそうです。路線バスが適している人、観光バスが適している人、同じコースを走る長距離の高速バスが適している人、運転手には適性があり、三カ月の運転を見て適性を判断することになるようです。

観光バスの乗車が夢ですが、バスの運転手としてスタートした路線バスの運転も楽しくて生きがいを感じているようです。

ある日、この運転手の知人が心配してこの路線バスに乗車しました。そこで凄い光景を目の当たりにしたのです。乗車していた地元のおばあさんが運転手に微笑んで話し掛けているのです。「もうすっかり地元の方に愛されているな」と思ったそうです。そのおばあさんの言っていることが聞こえてきました。

「本当に綺麗なバスですよね。毎日、乗っていて気持ちが良くなります」。「幸せな気分にさせてくれてありがとう」という声か聞こえてきたのです。そこでバスの前を見たところ、バスの前方には花が飾られているのです。窓、天井付近、降り口などに花が飾られていることや運転席の後ろ辺りに綺麗なゴミ箱が置かれていたのです。おばあさんはバスの中が綺麗になったことから、運転手さんに感謝の意味を込めて話し掛けていたのです。

もう一つ感心したことは、おばあさんの家はバスの停留所から少し先の場所にあるので、運転手さんは停留所を通り過ぎて、おばあさんの家の近くで停車したのです。こんな素敵な気配りができる運転手さんになっていたことを知り、「安心した」と僕に話してくれました。

バス車中を気持ち良く、そして綺麗に変身させたことや、お客さんのための行動を取っていることなどから、運転手さんのバス運転手としての適正は技術だけではなく人間性も適していると思います。

路線バスの運転を卒業し、子どもの頃から夢だった観光バスに乗務する日は近いと思います。夢が実現する嬉しい日が近づいていますが、地元のおばあさん達は悲しむだろうなと思います。親切な人がいると幸せになり、いなくなると寂しくなります。それが人生ですから、今この時に感謝したいと思います。

人を幸せにさせる人、人に寂しい思いをさせる人は素敵な人だと思います。