コラム
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2016/3/25
1642    花束

町の花屋さんから素敵な話を聞かせてもらいました。お店を開業して10年目を迎えていますが、「同じように見えてもお花は全て違っているので、同じ花束は二度とできない」と言う話です。

同じ種類であっても一本一本に個性があり違いがあるようです。年によって、気候によって、育った場所によってすべて違う個性を持っています。その個性のある花を組み合わせて花束を作ります。ですから同じような季節の花の花束と思っても、それらは個性的で全て違っているのです。更に言えることは、そこに人の心が入っていますから花束が輝いて見えたり、光を放っているように見える時があるのです。人の心とは贈り主の心、そして花束を作った人の心、そして受け取った人の心が花束に入っています。

輝いて見える花束、地味だけれども存在感のある花束など、人の心を花は感じ取り、関わった人の心によって変化しているのです。

「ありがとう」の言葉を添えて贈る花束は輝いています。「お店をきれいに飾ってね」と言葉を掛けながら花束を作っているなら、お店に合った光を放ってくれるのです。そんな人の心を乗せて花束はプレゼントされるので、花束を贈られると嬉しくなり、贈る人も嬉しく思うのです。

花屋さんは「同じ花束は二度とできないので、依頼を受けた目の前の一つの花束を作ることに集中しています。お客さんから依頼を受けた、この時のこの場面の、この人に対して贈る花束は一度限りですから失敗は許されません。全ての花束は成功作品でなければならないのです」と心の内を聞かせてくれました。花束はすべて成功作品。人も花も笑顔になっているのは、失敗ではなく花束を贈る時は成功しているものだからです。

そして「お陰様で花屋を開店してから10年目を迎えています。お客さんに支えられて商売を続けてきました。10年目を迎えて怖さを感じることがあります。気持ちは常に新人の時のように新鮮なのですが、もう初心者ではないのでお客さんの目は厳しくなっていることを感じるからです。『プロに頼んでいるのだから要望通りの花束に仕上げてくれる』だとか『お店の雰囲気に合った花束にしてくれる』という期待を感じるからです。勿論、全てのお客さんに成功作品を届けますが、相手が感じ取ってくれるかどうか不安になることがあります。経験を重ねると不安はなくなると思っていたのですが、逆にプレッシャーを感じるようになりました」と笑顔で話してくれました。

プレッシャーの余り、髪の毛がごそっと抜ける時もあるようです。「これだけ心を込めて花束を作って贈り先に届けたけれど、お客さんから『思っていたのと違っていた』など言われると、私の心が理解されなかったと思い落ち込みます。お客さんから『ありがとう。嬉しかったよ』や『相手の方がとても喜んでくれました』などの言葉をいただくことは喜びですが、『お金を支払っているのにこの程度か』など避難されることもあります。そんな時は次回のプレッシャーから髪の毛が大量に抜けます」と笑いながら話してくれました。

花束

花束は心を届けるものですから、きたない言葉を残すようなら真心を届けられません。最後に素敵な言葉を聞かせてくれました。「花を贈ることは片桐さんの代わりに花が相手のところに行くことなのです。花は片桐さんの代理ですから素敵な花束を作っています」。