コラム
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2015/10/13
1613    炎の塔

1974年に公開された映画「タワーリング・インフェルノ」を思い出しました。それは五十嵐貴久氏の「炎の塔」を読んだからです。この物語は「タワーリング・インフェルノ」を優れたエンターテイメントのトップだと称えていることから、昔のこの作品を思い出したものです。中学校1年生の時に映画館で観たのですが、「これがハリウッド」と思わせてくれた圧倒的迫力があったように思います。あの時、主題歌のレコードを買って聴いた記憶も残っています。

さて「炎の塔」に登場するのは極めて普通の人々です。落ちこぼれの消防士が、タワーの人の命を救う大切な役目を果します。火災現場は「怖くて仕方ない。自分には消火活動はできない」と思うのですが、タワーの火災現場にたった一人の消防士としての使命感が行動に向かわせます。

「怖いんです」、「私は落ちこぼれの消防士です。何もできません。今だって、怖くて、立っているのがやっとなんです」と消火活動を指示してきた消防対策本部に伝えます。

自信も実力もない消防士が命を掛けて行動を起こしたことが、タワーの消火と多くの人の命を助けることになります。スーパーマンでもスーパーヒロインでもない人達が命の大切さを感じ、自分のことよりも人の命を救うために行動を起こします。人は極限の状態に置かれた時、人の本質が分かります。

自分の命をなくしてでも人の命を救う行動に出た元公務員は、自分の命と引き換えに子ども達の命を救います。

「あそこで選ばれたのは偶然じゃなかった。そのためにこのリフトに乗った。務めは果さなければならんよ」と言って、同じリフトに乗った子ども達を救うために自らの命を投げ出します。

それに対してタワーを建設した会社の社長は、火災現場から一人だけ助かろうと障がい者など助けが必要な人用のエレベータで逃げようとします。消防士やホテルマン、警備会社の人達が懸命に消火活動と救助活動をしている最中にです。全ての責任者としての責任も誇りもない態度を見せます。

火災現場にいたホテルの総支配人は協力を呼び掛ける消防士に対してこう言います。「私はホテルマンですよ」。これはお客さんを置いて逃げることは考えていない、最後の一人が逃げ切るまで現場に残る覚悟を語った台詞です。自分の役割に誇りと責任と覚悟を持っていることを示しています。

究極ともいえる火災現場の人間模様が記され、物語は展開していきます。登場人物の行動や心理状態を通じて、選択を迫られた時に「人はどうあるべきか」を学ぶことができます。

自分が助かることだけに行動する人。人のために命を投げ出しても良いと覚悟を決める人。

歴史書もそうですが、優れた物語は登場人物を通じて「人はこういうものである」ことを教えてくれます。私達は物語の登場人物の考えや行動を見て人として大切なことを学ぶことができるのです。

世の中は正義も悪も、その中間の人もいます。上手く行かないからと言って出会う人を批判するのではなくて、自分が思い考え、選択した行動を取ればそれで良いのです。