コラム
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2015/7/21
1601    特別な一日

劇団四季によるライオンキングの公演が1万回を達成(平成27年7月15日)したという報道がありました。その時の「一万回を迎える心境はどんなものですか」というインタビューで劇団の関係者が答えました。

「一万回という数字は凄いことだと思いますが、私達は1万回目の公演を特別なものだと思っていません。毎回の公演に来てくれるお客さんがいますから、毎回、同じように最高の舞台を届けようとしています。この気持ちは変わらないものです。今回の1万回目の公演も最高の舞台を届けたいと思います」という答えでした。素晴らしい考え方です。

5千回目や1万回目などの節目を大切にする気持ちは持ちたいものですが、その時の公演を特別なものだと思わないことです。9,999回目に来たお客さんも1万回目に来たお客さんも同じ舞台を期待して来てくれているのです。1万回目を特別にするのではなくて、毎回の舞台を特別で最高のものにしようとする気持ちが大切なのです。

忘れてはいけないことは1万回という数字は1回、1回の積み重ねの結果だということです。いきなり1万回を達成したものではありませんし、初公演の時は1万回を目指した訳でもないと思います。1回、1回を最高の舞台にしようと劇団のみんなが思い、それを舞台で実現してきたから1万回公演が達成できたものだと思います。

観劇するお客さんがライオンキングの評価をしてくれたのです。途中、手抜きやマンネリな舞台をしていたなら、その気持ちはお客さんに伝わります。「ライオンキングはたいしたことないよ」、「迫力がなかったよね」などお客さんに評価されてしまっていたら、1万回も公演を続けることはできなかったと思います。毎回の公演を評価してくれるお客さんがいたからこそ、1万回公演を達成できたのです。

ところが毎回、最高の舞台に仕上げることは難しいことだと思います。お客さんにとってライオンキングを観劇するのは特別な一日となりますが、劇団員にとっては何百回も何千回も演じる舞台は特別なものではないからです。しかし毎日、同じ公演を繰り返すことは内心、マンネリ化を起こします。

劇団員にとって本当は、この舞台は特別なものですが、毎日繰り返しているとそれが特別なものではなくなります。出演者に選抜された時の気持ちを続けて持つことは簡単なことではないと思います。初回公演の時の気持ちと、100回目の公演の時の気持ちには違いがあると思います。「自分がこの役を演じることは当たり前のことだ」、「他に誰が演じられるというのか」と思ってしまうこともあるからです。特別なことを特別なことと思わなくなると、良い意味で緊張する気持ちが失われていきます。毎日繰り返される出来事を特別なものだと思えるなら、評価を得て続けることができるのです。劇団員は1万回演じているかも知れませんが、お客さんにとってはたった一度の観劇の機会だったかも知れないのです。たった一回の特別な機会を特別な公演にするためには、演じる人が、「今日は特別な公演だ」と思うことが必要です。

私達の日常は特別なことが起こるわけではありません。特別なことが起こらない毎日を、「特別な日が今日だ」と思えるような生き方をすれば最高の一日を過ごしたことになります。命が与えられている今日は決して当たり前の日ではなくて、特別な日なのですから。