コラム
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2015/1/30
1577    やればできる

和歌山市内の某児童養護施設の子ども達は水泳が苦手でした。学校の授業で習う機会がありますが、自分で練習をする機会がなかったからです。水泳教室は子ども達が習いたいと思うスポーツで人気の種目ですから、児童養護施設の中には習いたいと思う子どもがいました。先生が水泳スクールに行って習うための費用を確認しても、とても支払えるような月謝ではなかったことから、この施設の子ども達が水泳を習う機会が訪れませんでした。そのため水泳が苦手な子どもが増えていたのです。

ある年の夏、私から提案をしました。「みんなで水泳スクールに行く機会を作るから習いに行こう」という提案です。事情を知っているこの施設の先生と子ども達は、当初、「そんなの無理」と思っていたのですが、私が「大丈夫。気持ちがあれば習えますから」というものだから、一度、水泳スクールを見学しようということになりました。

事前に水泳スクールの経営者と「僕が応援している児童養護施設があるので、社会貢献をして欲しいのだけれど」と話をしていました。経営者は社会貢献を志向している方だったことから、「子ども達に来る気持ちがあれば来てもらっても良いです」と答えをいただいていて、更に費用に関しても「水泳を習いたくても習えない環境にある子ども達を支援するのですから要りません」という内諾を得ていました。

子ども達も先生も「信じられない」という表情をしていましたが、話が本当だと分かると大変喜んでくれました。子ども達にとって水泳を習う経験は初めてのことだったので、慣れない雰囲気で最初は戸惑っていましたが、次第に慣れてくると練習が楽しくなっていく子どもも出始めました。

それから数年が経過しました。この児童養護施設は、それまで和歌山市内の学校対抗水泳大会に出場しても順位は最下位が定位置だったのですが、見事、大会で二位になることができました。順位をこれだけ上げたのは初めての出来事です。これも子ども達が水泳スクールで練習を続けてきたからです。

それまでは関係なく、そこから練習を続けていくことで実力は上げられます。諦めないで練習を続けることが上達の秘密で、練習すること以外に水泳の実力を向上させる方法はありません。泳げなかった子ども達が大会に出場して好成績を収めるようになったのは、水泳習える環境を整えたこと、子ども達が勇気を出して水泳スクールに行って練習を続けたこと、水泳スクールで本格的な指導をしてくれたこと、そして子ども達を励まし続けた同施設の先生方がいたからです。

大会で二位になったことに関して先生と話をしました。「子ども達が水泳を習うようになって表情が明るくなりました。子ども達が水泳スクールに通える環境を作ってくれたからだと感謝しています」と話をしてくれました。

私は「今習っている子ども達が将来オリンピックに出場できることを願っています。やればできると思えることが子ども達には必要です。水泳の練習を行って速く泳げるようになった経験を持った子ども達は、大人になっても、やればできると思って生きることができます。それが財産になりますし、もしここからオリンピック選手が誕生したら、やればできることが、同じ環境の中にいる子ども達にも伝えることができます」と答えました。

やればできることを、水泳を通じて証明してくれる子ども達に感謝しています。自分で良い行いをしたと思えるのは子ども達が水泳の練習を続けてくれているからです。きっかけを作ってから2年。あれからたくさんの果実が実っていることを嬉しく思います。