コラム
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2014/10/31
1551    思い出

平成26年10月5日、日曜日。ゆっくりと病室でいられるのは土曜日と日曜日ですから、一日の好きな時間に一緒にいられます。よく話をすると思ったら、急に寝てしまうというペースを繰り返していました。急に寝てしまうと心配になりますが、大きく呼吸をしているのと、身体が痒くなると手が動くので安心できました。ただ昨日と違って言葉を発することは少ない一日でした。

言ったのは「かゆい」と「パンツがビショビショ」という言葉です。身体がだるくて痒いようだったので身体を摩るようにかいて、また大人用のオムツをしているのでそれが濡れて気持ちが悪かったようなので取り替えたところ直ぐに眠ってしまいました。こんな手間が掛かることは、普段であれば面倒くさいと思うものですが、手間を掛けられることが生きていることなので嬉しいと思うのです。心の持ち方で行動の意味が変わるから人は不思議です。

台風の接近からか、病室が少し暑かったようで毛布を捲り、衣服をずらすなど頻繁に手を動かせていました。両親がいたからここに存在していられると思うので感謝の気持ちだけが浮かびます。感謝の言葉以外の言葉はなく、心からこの世に送り出してくれてありがとうと伝えたいだけです。

一緒にいられる大切な一日が確実に時を刻み過ぎていくこと実感し、幸せな気持ちになっています。病室という小さなスペースで、行動範囲も少ない中なのに濃密な時間が存在しています。会話も考えることも動くことも少ないのですが、人生が凝縮されたような時間を過ごしています。

ここにあるのは感謝の気持ちと言葉。生きていることが素晴らしいと思える喜び。押し寄せる不安ときっと大丈夫だという希望。明日が訪れて欲しいという一日を大切にする気持ちになっていること。大切な思い出が増えていくこと。そして最後の瞬間まで一緒にいるという思い。そんな人生で確かめなければならない課題と、大切にしたい感情をいただいています。朝、いつもと同じように何事もなく目覚めること、夜寝る時に「今日と同じ明日が訪れますように」と思いながら朝を迎える準備をしていること。当たり前のような一日を感謝すべき一日へと変えてくれています。

一緒にいられる感謝と喜びの気持ちに満たされているので、不満に思ったり不安を感じる隙間はありません。今日が存在しているということが素晴らしいと思うだけです。

一日が始まり一日が終わる。そんな大切な営みが繰り返されていることを感じられることが素晴らしいことであり、思い出を記すことができることが幸せだと思うのです。

そして今日の出来事は、今日記さなければ消え去ってしまうことも知っています。今日の感情は今日中に言葉に置き換えなければ消え去る運命にあります。感じたことや思ったことは心の中にあるもので存在していません。心の中にだけ存在しているものを現実に存在させる方法は言葉にすること以外にありません。こうしてこの一日を言葉にしているのは、思い出を残すためでもあるのです。思ったことや感じたことを言葉にしていなければ、一年後にその思いや感情を思い出すことは困難です。大切な父との思い出を言葉にしておくことは、確かに父が生きている日を消さないためでもあるのです。

寂しい思いはありますが、こうして一日を振り返れることに感謝しています。