コラム
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2014/10/15
1543    徳をいただく

「恩を返す」と言われますが、「無理に恩を返してもらわなくて良い」という考え方もあることを聞かせてもらいました。恩を返されると「もう恩を返したからあの人とは貸し借りの関係がなくなった」と思われてしまう恐れがあるためです。

しかし恩を感じたままでいてくれると「その人の心の中にいつも自分の存在があるので心の中でいつまでも感謝されることになります。だから恩は返してもらわない方が良いのです」ということです。しかも「その人に感謝され続けてくれることで、実は徳を受けているのです」とこの方は話してくれました。

徳とは人にとって大切なものですが、徳は短期間で簡単に手に入るものではありません。徳を積むというように、長い時間を掛けて人に喜ばれることをして自分に備わる宝物なのです。決して人から与えられるものではなく自分で得なければなりません。そんな人にとって大切な徳をいただく方法は、人に喜んでもらうことや感謝されることを行うこと、そして恩を感じてもらうことなのです。人から受け取る徳は一生を通じて受け取れるものであり、消えることはありません。

大相撲で平幕力士が横綱を破る金星をあげると、引退するまで金星の対価を受け取り続けることができます。一場所だけ報酬を得るのではなくて引退するまでの給料に反映されるしくみになっています。徳とはこの金星のようなもので、恩を返してもらうか、自分が死ぬまで生涯受け取り続けることができるものです。非常に価値が高いものだと言えます。

もしかすると、大相撲の金星には人徳という意味が秘められているのかも知れません。金星をあげるほどの力士であれば、精進を重ねていくと役力士に出世する可能性がありますから、技術の鍛錬と共に人徳を重ねていくことの大切さを金星制度の中に込められているような気がします。恩を物質で返してもらうと徳を受け取ることはできません。モノで受け取るか徳で受け取るかの違いは、将来、人徳が備わるかどうかの違いとなります。徳を得ている人は年齢と共に人徳を備えた人物となっているのです。

「恩と言うものは不思議なもので、恩を感じてもらえる人からずっと徳を受け取ることができるのです。とても得難い徳というものは恩を与えることで得ることができるのです。見える形で返してもらうことはもったいないことです。恩を与え続けることで徳をいただいていると思うと人生は楽しい旅になります」と教えてくれました。

知識や技術は自分の力で得ることができます。しかし徳は自分の力で得ることは難しいもので、人から与えてもらうことで得られるのです。自力でやりとげることは大変なことですが、他力をいただくことはもっと大変なことなのです。人は誰でも自分のことを大切に思っていますから自力は使っても他力で使うことは余りしません。人のために尽くそうと思う人は社会に奉仕することに価値を持っている人か、好きな人がいる人です。社会奉仕や人を好きになることで自力ではなく他力を使うことができ、その結果、徳をいただくことができるのです。

他力本願と言いますが、他の人が私のために力を使ってくれることは難しいことなのです。

徳を得るためには他の人の力を借りること。他の人の力を借りるためには、まず与えることから始めなければならないのです。