コラム
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2014/8/18
1517    声を聞く

平成26年8月1日、癌を始めとして次々に襲ってきた病気と闘っていたOさんが退院しました。実に半年ぶりくらいに自宅に戻りました。生きるんだとみんなに誓った通りになり、本当に素晴らしい気力です。そしてお見舞いに行った時に聞いた声に本当に驚きました。

「来てくれたんか」という声が、元気な頃のOさんの声に戻っていたからです。この本物の声を聞いたのも半年ぶりだと思うので、「ここまで戻れて本当に良かった。頑張った結果が今にある」と思い感動で涙が出ました。ただ声を聞いただけで涙が零れる経験はないと思いますから、幸せな体験がひとつ増えました。

一緒にいる奥さんからは、「手術をした後、しばらく声がでなかったのです。経過が順調で喉の装着物を取って初めて声を出した時も、看護士さんから歓声があがりました」と話してくれました。声が出るようになって最初に言った台詞は「ティッシュはありますか」だったので、傍にいた三人の看護士さんは笑いながら涙を流してくれたと聞きました。

声を出せること、話ができること、会話が成り立つことは、日常生活の中で当たり前のように思っていますが、決して当たり前のことではないのです。喉の大手術をした後に声が出なくなり筆談の時期がありました。声が出ないことの歯がゆさがあったと思います。言いたいことの半分も言えないもどかしさもあったと思いますが、懸命にリハビリを続け小さな声なら出るようになりました。

そして退院した第一声が「来てくれたんか」という元気な声だったのです。元気に走り回っていた半年前の声が発せられたので本当に感激しました。奥さんと「声を聞くことがこれだけ感動することだと思わなかった。話ができることの幸せを感じますね」と話し合ったように、自然界にあることは当たり前のことはなく、全て命のある間だけ与えられているものなのです。身体や周囲のものは、全て預かったものですから大切に生きなければならないと思います。

そんな時、リハビリのため理学療法士の方が来てくれました。リハビリの時間にお邪魔することは迷惑かなと思ったのですが、「リハビリの様子を見ていって下さい」と言ってくれたので、暫く拝見させてもらいました。細くなった足を懸命に動かそうとしています。理学療法士も汗を流しながら必死のリハビリを続けてくれています。このリハビリの姿に生命の輝きが見えました。場所は自宅のベッドの上、登場人物はリハビリをしているOさんと理学療法士、観衆は私と奥さん、実演はリハビリという設定ですが、これが感動する場面になったのです。

何のことはない光景ですが、生命の輝きを感じられると、こんなに素晴らしいものになるのかと思いました。命が輝くのは大舞台や晴れの舞台に登っている時だけではなくて、どんな姿であっても命を懸けて懸命に戦っていることが命を輝かせるのです。

苦しい場面、厳しい場面がありましたが、自宅に戻りリハビリを続ける状況になったのでこれから良くなる一途です。苦しい時期を乗り越えたからこそ、ベッドの上でもこんなに命は輝いています。

人はどんな時でも懸命に頑張ることで、自分の置かれた場所で輝くことができるのです。

声を聞いて感激したことを忘れずにいたいと思います。