コラム
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2014/7/30
1508    小さな前進

和歌山県西口元知事の時に南紀熊野体験博実行委員会に出向していたことから、親しみを感じていた知事でした。今は亡き西口元知事と仕事をした方から体験談を聞かせてもらいました。

当時、県知事への手紙という制度があり、知事に意見を言いたい人は手紙を郵送していました。県庁所管課は、寄せられた手紙をテーマごとに分類して回答を返していました。全ての人にとって良い県政でありたいものですが、全ての人が満足してくれる政治はありませんから、県政への批判意見も届けられます。

所管課は批判の手紙を知事に見せるべきかどうか悩みましたが、県政への批判を聞いてもらうことも知事の役割だと思い、当時の所管課の課長が知事室に入りました。批判ばかりの手紙を読んだ西口元知事は流石に顔をしかめたそうです。しかし机の電話に手を伸ばして、その批判の手紙を出した人に電話を掛けたのです。

「西口です」という呼び掛けに対して、電話の向こうの人は驚いて恐縮したそうです。「まさか知事が直接電話をくれるなんて」と驚きと感動でいっぱいになっていたそうです。

この知事の行動力と恐れない力は見習うべきです。私達は、自分を批判する相手や嫌なことを言う相手はなるべく避けたいと思うものです。避けて通れるものであればそのままにしておいても良いのですが、回答を出すべきことや話し合って解決しなければならない問題であれば、早晩対応しなければなりません。

知事のこの時の行動力と対応力は、今聞いても迫力があります。電話を通じて批判のあった県政の考え方を説明したそうです。一部の人には得にならない県政であっても、全体として推し進めるべき県政を進めるためには必要なことを述べたそうです。思考や考え方はそれぞれ違いますから納得してもらえないとしても、知事の気持ちは確実に相手に伝わったと思います。「まさか直接知事から電話をいただけるなんて」と思ったことでしょう。

逃げない力、恐れない力、対応する力は、直面する困難な問題を解決していくために必要な力です。批判してくる相手から逃げないこと。強大に思える相手を恐れないこと。放置しておくと大きくなる問題に即座に対応することはリーダーの資質です。

電話を置いた西口元知事は「電話で話をしたから大丈夫。自信を持って進むべき県政を担って欲しい」と伝えたそうです。この手紙を知事に届けて電話の一部始終を聞いていたこの時の課長は「どうしようか迷ったけれど手紙を見せて良かった」、続けて「聞きたくないような批判ばかりの意見を聞くこともトップの仕事だと思います。逃げないで対応することで問題は解決に向かいます。この時の西口知事の対応は見事でした。批判する相手に怯まず、恐れず、自分が推し進めている県政の説明をしていました」と話してくれました。

困難を部下や誰かに任せないで自分で対応する心意気は、周囲の人を奮い立たせます。部下や周囲の人が奮い立つことが、県政や仕事を進める大きな力となります。

県政が100パーセント理解され支持されることはありません。それでも批判があればそれに対応していくことが県政を推し進める力になるのです。一つの批判を解決したところで少しだけ前進するだけですから、その違いは分からないほどです。しかし逃げることは後退ですから、小さな前進は将来につながる大きな成果だと思います。