コラム
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2014/7/24
1504    夏の花火

夏の花火は不思議と記憶に残るものです。一瞬で消え去る花火なのに、この先も記憶の中に閉じ込められて、夏の季節が過ぎ去った後も、あの時、夏の季節があったことを知らせてくれると思います。一瞬で消え去るものに感情移入するのは、人生も一瞬で終わるようなものだと心は知っているからだと思います。打ち上げられた花火は数秒、花火大会にしても15分程度の夏のイベントに過ぎないのですが、確かにここで観たという時を刻んでくれます。

心は見えないので確かなものだと思いにくいのですが、一瞬で消える花火のようなものだと思います。花火は空高く上り一瞬光り輝いて消えるので、その後はいつもと同じ夜空があるだけですが、その輝きがなかったとは思いません。確かに輝き放ってくれる花火のように、心は見えないし掴めないけれど一瞬の形になってくれます。それは言葉であったり、態度であったり、温もりであったり、同じ時を刻むものがそこにあれば一瞬であっても永遠です。

暗い夜だからこそ光は輝きます。昼間に花火が打ち上げられても輝きを放たないように、心に暗い不安がある時ほど輝きが増すと思います。人生に不安は不必要ですが、定まったものや一定のものがない世の中ですから、形のない不安感は時々私達の心をノックします。そんな時、暗い不安を輝きで葬り去ってくれるものは花火のような思いだと思います。花火のような思いとは人の優しさであり、思いやりであり、言葉であり、温かさです。これらは近くにあっても決して触れることができませんし、一瞬で消えてしまうものです。でも確かな輝きです。一瞬輝いて消えてしまうけれど、心と記憶の中にいつまでも残ってくれて、心が望むならいつでも心に輝きを放ってくれます。

花火は写真撮影が難しいように、心の輝きも物理的に撮影することは難しいのですが、心のシャッターが見えない輝きを永遠に定着させてくれます。生きている限り夏の花火は心に輝きを放ってくれているのです。

何時までも見ていたい夏の花火ですが、永くはないその瞬間が良いのです。スポーツの大会でも大きな大会の発表でも、その輝きは一瞬です。でも人生にその一瞬があるから、今、それを目指して頑張れるし、そこに至る道に幸せを感じるのです。その一瞬が終わった後も達成感と共に記憶に残ります。

人生はそんな一瞬の輝きに幸せを感じることの連続です。考えてみると夏の花火は特別なものではなくて、誰でも毎年のように見ることができます。人生の輝きは日常の中にある一瞬のもので、見逃さないように心の中で夏の花火を見ることができたら、幸せの光が輝いてくれます。永く続くから幸せではなくて、夏の一瞬の花火のような輝きをたくさん見ることが幸せだと思います。

会話と一緒に食事をする、夏の夜の涼しい風を楽しむ、ここにいる安らぎと共に静かに目を瞑る、好きな音楽を聴く、もぎたての季節のフルーツを食べる、チョコレートをひとつ口に入れる、手を振る。そんな花火のような一瞬の行為が幸せだと思うのです。

瞬く間に過ぎ去る夏。花火のような一瞬を心に閉じ込めて、いつでもその輝きに会えるようにすれば、幸せはずっと続きます。