コラム
コラム
2014/7/22
1502    心の健康

大正9年11月生まれの亀井百合子さんは、現在93歳。平成26年11月になると94歳となります。今から10年前に脳梗塞で倒れ治療を受けましたが、左半身が不自由になり、現在に至っています。そんな亀井さんが絵画に出会ったのは91歳の時でした。絵の先生の個展に行った時、気に入った作品に出会い、「私もこんな絵を書いてみたい」と思ったことがきっかけです。その先生に依頼して一ヶ月に2回、絵を習うようになりました。それまで絵を描いたことはありませんから、91歳から新しいことを始めたのです。始めることに遅すぎることはないと言われますが、始めることを躊躇している人が圧倒的で、やりたいことをやれる人は少数派だと思います。

筆や絵の具を揃えて描き初めて二年が経ちました。作品も溜まってきたので、絵の先生が「個展を開けるのでは」と話したところ、和歌山市民会館で開催することが決定しました。平成26年9月に個展を開催することになり、亀井さんは自分の描いた作品がみんなに観てもらえることを楽しみに待っています。

亀井さんの心の拠り所は、10年前に左半身が不自由になった時にかけてもらった言葉です。「あなたは、身体は不自由だけれど心は健康です。心が健康なのだから、しっかりと生きることですよ」。心は不自由ではないことを知り、それ以降、何事にも挑戦する生き方をしています。川柳、ビーズ作り、キーホルダー、洋裁、そして絵画です。とにかく、やりたいことをやり続けています。94歳の方が挑戦を続けている姿に接して感動しています。

「みんなとおしゃべりできるし、おいしいものも食べられる。毎日がとても幸せです」と話してくれました。幸せとは自分が感じるものであり、おしゃべりやおいしいものを食べることが幸せなのです。それに気付く人は幸せですし、気づかない人は一生幸せを追い求めて、しかし幸せを見過ごしてしまいます。心に不自由なく日常を過ごせることが幸せなのですが、それに気づかない人は毎日、幸せを感じることはできません。

そして「私は10年前にこの言葉に励まされて生きることができました。個展に来てもらえる人がいれば、94歳のおばあさんの作品を観て、元気をもらってくれたら嬉しいことです。今度は私が皆さんに幸せをお返しする番です」と話してくれました。

言葉は生きていますが、言葉と共に90歳を超えて描いた作品で幸せを分け与えようとしている94歳の人がいます。

農家に生まれて7人兄弟の長女だったことから、学校に行くことよりも畑で仕事をすることを家庭から求められ、弟や妹達の面倒を見ることが役割だったそうです。勉強をする時間はなく、勿論、絵を描くこともできませんでした。これまで人生で体験したことのない絵を描くという体験ができている今を「幸せ」と感じています。

亀井さんは、こうして個展開催まで辿り着けたことを感謝しています。絵を教えてくれる人、介護支援をしてくれている人、市民会館の手配をしてくれた人、作品の飾り付けを手伝ってくれている人など、多くの人が亀井さんの生き方と個展開催を支援しています。

関係する人達は亀井さんを助けているように思っていても、実は亀井さんから生き方を教えてもらっていることを知っているのです。心が健康だったら、やりたいことをやれること。年齢によってやりたいことを躊躇する必要はないことを学んでいるのです。