コラム
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2014/7/4
1492    頭を垂れる

和歌山県議会議長と懇談した時のことです。議長の若い頃は建設業を経営していて、一代で地域のトップ企業へと上り詰めたそうです。厳しい競争を勝ち抜くことに価値観を有していたのですが、ある時、自分を育ててくれた地域のために貢献する時期に差し掛かっていると感じ、無借金経営で業績の良い自分の会社を閉めることに決めたのです。そして県議会議員への道を歩き始めたことを知りました。

「利益を追求する仕事は楽しいものでしたが、利益を得てそれ以上を求めることに価値を見出せませんでした。それよりも利益を与えてくれた地域に恩返しをしたいと思いました」という思いから、政治の道へと進路を変更したのです。

「県議会議員になって良かったと思うことがあります。それは日々、感謝の気持ちで生きていることです。事業をしていた時は利益を生み出すことや仕事を獲得することに全力を傾けていたので、人に感謝することはありませんでした。ところが議員にならせてもらって気づきました。一人の力では何もできないということを。議会活動をさせてもらっていることへの感謝、話を聞かせてもらっていることへの感謝などを感じています。議員になっていなければ、今のように皆さんに感謝の気持ちを持てたかどうか分かりません」という話を聞かせてもらいました。

私も全く同じ意見で、議員に送り出してもらっていることに感謝していますし、日々の活動は感謝することばかりです。周囲に支援してくれる人がいなければ議員活動は成立しません。一人の意思、一人の思い、一人の行動で社会を動かすことはできないからです。種火として一人の意思や行動は絶対に必要ですが、現実社会で思いを実現させるためには、それを周囲に伝播させ大きなモノにしていく必要があります。現実社会で実現させるためには一人の力、個人の能力は関係ありません。どれだけ周囲の皆さんと一緒に思いを共有でき、実行できるかに懸かっています。

周囲の皆さんと一緒に使命を果すために必要なものが感謝の気持ちなのです。感謝の気持ちこそ、いつまでも持ち続けるべき心です。そして議員として活動をしていると、感謝の気持ちを持ち続けることができます。それは毎日のように多くの人出会い、励まされ、皆さんに支援してもらっていることを実感できるからです。

議員としての資質は、感謝の気持ちを持てる人物かどうかだと思います。議長からは、「常に心掛けているのは、実るほど頭を垂れる稲穂であること」だと聞かせてもらいました。常に謙虚で、感謝の気持ちを持つことが議員として必要な素養なのです。

人は社会で成長していくものです。青い時代は天高く伸びる姿勢が必要ですが、成長するにつれて人生は黄金色に稲穂が実り始めます。そんな時こそ周囲を見渡して、謙虚に、感謝の気持ちを持ち続けることが大事なことです。

社会が評価するのは人より高く伸びた茎ではありません。社会から評価されるのは実って頭を垂れている姿です。社会でみんなから欲せられる果実を実らせることが評価対象となるのです。上へ上へと高く伸びるよりも、実を実らせることが人として生きる道だと思うのです。やがて黄金の実は社会に解き放たれ、社会という大地に実を実らせる種になります。

一人で成果を出して終えることよりも、実を実らせて社会に種を蒔くことが尊いのです。