コラム
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2014/4/1
1436    コスト意識

尊敬する経営者から経営におけるコストの考えを聞かせてもらいました。最近は多くの企業が従業員に対してコスト意識を持つことを求めています。収益を上げるためには売り上げを上げることとコストを切り詰めることを考えることが経営者の責任だからです。売り上げを伸ばすための戦略は経営陣が立案することであり、コスト削減は現場の意識に関るものがあるからです。

ところが余りに現場に対してコスト削減を指示すると、良い仕事ができなくなることになるという話です。技術者の思いを知らない経営者は現場にコスト削減を求める傾向があるというものです。

例えば飲食店の場合、経営者が料理人に求めるものは美味しい料理、新しいメニューの開発などがありますが、最大に求めるものはお客さんの満足です。お客さんがこの店舗での食事に満足してもらうことが飲食店経営者の最大の目的なのです。食事を通じてお客さんが喜び、会話が弾み楽しい一時になること、そしてまた来たいと思ってもらうことが飲食店経営の目的です。

ですから料理人の使命は美味しい料理を作ってお客さんに満足してもらうこと、食事を食べて幸せになってもらうことにあります。そのために調理をし、メニューの開発をするのです。それ以外にないのです。料理人に求めるものはその点に尽きます。

もし料理人にコスト意識を持つことを強く訴え続けたとしたら、コスト意識が強くなり過ぎてしまいます。その結果、素材の品質を落としたり、今までよりも安価なメニューを開発することになります。また安い食材を仕入れることで味が落ちることも考えられます。

完全に目的がお客さんに満足していただくことから、コストを切り詰めることに変わっているからです。これではお客さんが離れてしまい、売り上げが低下することになります。コスト削減は成功したけれど売り上げが落ちるという結果になります。

何よりも料理人は職人ですから、お客さんに満足してもらう料理を作りたいのです。最高の食材を仕入れ、最高の料理を作りたいと思っているのです。良い食材は高いから安い食材にして品質を落として料理を作っても、お客さんは分からないから儲けられるとは考えていません。プライドがあり仕事を通じて実力を試したいと考えているので、そんな職人はいないからです。

ですから経営者は料理人にコスト意識を求めすぎてもいけないのです。料理の腕があると共にコスト意識がある料理人は独立して自分の店舗を構えますから、いつまでも雇われでいてくれないのです。徹底して職人としての技術を求めてもらうことが、品質と味の良い料理につながり、お客さんに満足してもらえるのです。

料理人か変わることで味が落ちるとしたら、お客さんはお店から遠のきます。それではコスト削減は成功したけれど売り上げは低下し、しかもお客さんが離れることで長期的な観点からも売り上げは低下し続けることになります。経営者が現場にコスト削減を求め過ぎることは経営者の取るべき立場ではないことが分かります。

これは飲食店に限ったものではなく、コスト削減意識が徹底されると仕事の品質が低下することになります。コスト優先でお客さんの満足はその次の価値になるからです。自分がすべき役割を現場に求めるような転換は考えものです。自分がすべきことは自分で責任を担うことが決断を求められる立場の人が考えるべきことです。