コラム
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2014/2/12
1406    楽しいことを考える

紀峰村塾の山本文吉さんに久し振りに会いました。86歳の今も元気に活躍されている姿に接し、話を聞かせていただき感動しています。山本さんは、精神的な問題を秘めている子ども達が社会で自立するために陶芸などの技術を指導してきました。その自立するための塾が紀峰村塾で、山本さんが直接指導に当たっていました。現在は高齢のため別の指導者になっていますが、そんな道筋をつけたことに尊敬の念をいだいています。

再会の冒頭、「僕ほど幸せな人はいないよ」と切り出してくれました。それは子どもたちが社会で生きるために必要な経済力を得るために陶芸などの技術を指導してきたのですが、逆に子ども達から生きることを教えられたからだと言います。子ども達がお金を得るために得た技術をもって働く姿に接していると、真剣に生きることが幸せであり喜びであることを感じたからです。働くことができることは幸せなことであり、自分で生み出したものを買ってもらえ、買った人が幸せを感じてくれることが自らの喜びになることを、子ども達の素直な姿から学んでいるように感じました。

「あの子達に育ててもらった」と、かつての教師だった山本さんが言いました。教師を退職した後に始めた生きる力を身につけるための塾で、子ども達から学んできたと言える山本さんの凄さを感じます。山本さんの、子ども達と同じような素直さや謙虚さが、人としての凄みに感じられるのです。

子ども達を指導するに際して内面で大切なことがあります。それは仕事と今日という日を楽しむことです。人生には嫌なことや辛いこと、腹が立つことはたくさんありますが、そんな時でも嬉しいことを考えることを、陶芸を通じて教えています。

紀峰村塾では毎年、干支の置物を制作して販売しています。子ども達の想像力豊かな干支の置物を楽しみに待っている人がいるからです。子ども達は、待ってくれている人を思って、ひとつとして同じものがない干支の置物をたくさん製作しています。

平成24年の干支は巳でした。蛇の姿を置物にしていたのですが、山本さんは子ども達に伝えました。「蛇は人から嫌われていたり、避けたがられたりしています。だから外見を真似るのではなくて楽しい蛇を想像して作ってみよう」と呼び掛けたのです。そのひとつとして蛇に帽子を被せてみました。頭に帽子を被り、その頭と同じように尻尾を空に向けたユーモラスな蛇に仕上げると楽しい姿になりました。

他にも「蛇にギターを持たせたらどうだろうか」と子ども達に呼び掛けて、ギターを持った蛇を制作してみると、おどけた蛇の姿は楽しくて活き活きとした置物になりました。

蛇が嫌なことや腹が立つことの象徴だとすると、それを楽しくて嬉しいことにするためにはどう形を変えたら良いのかということを、制作活動を通じて教えたのです。

嫌なことでも、腹が立つことでも、自分でその意味を嬉しいものにしようと考えたら、嬉しいことに変化させることできるのです。子ども達に、社会を生きるためには明るくて楽しいことを考えることが大事だと伝えているのです。

蛇に帽子やギターを持たせることは、少しだけ考え方を加えると嫌なことでも楽しいことに変化することを教えているのです。蛇に帽子、蛇にギター。嫌なことに遭遇した時、それを連想することで「楽しいことを考えなければ」となります。参考にしたいものです。