コラム
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2013/12/19
1382    先に行かせてあげる

「先に行かせてあげられる人が結局、先に行くんだよ」という言葉をテーブルに飾っている「けむり屋」さん。おもてなしの素晴らしい炭焼きジンギスカンのお店です。オーナーの木村さんと話をした時に、この言葉の由来を聞かせてもらいました。

ある日、車を運転していると、後ろから猛スピードで迫ってきた車がありました。「相当急いでいる」と思い、車線を空けて進路を譲りました。その後もスピードを出して抜き去っていきました。

木村さんはその後、食材を買うためにスーパーの駐車場に車を止めてお店に向かって歩いていました。そうしたところ先ほどの車が駐車場に飛び込んできたのです。「あれっ、あれだけスピードを出していたのに、まだ目的地に着いていなかったのか」と思いました。

急いでいる余り、近道や迂回路などに入る余裕がなく、幹線道路を走り続けたことからかえって到着が遅くなったのです。車でスピードを出していると周囲が見え難くなりますから危険が増しますし、注意力が必要となり神経を使います。またどれだけ急いでいても、一車線に差し掛かることがありますから、どうしてもスピードを保ったまま目的まで行くことはできません。それよりも周囲の道路状況を確認して、適切な進路を選択する方が目的地に速く到着するのです。

木村さんは、「スピードを出しても目的地に到着する時間は変わらない」こと、そして「急いでいる人に道を譲った方が、ぴったり後ろに着けられることがないので自分のペースで運転できるため安心して運転できる」と思ったのです。

そして「先に行かせてあげられる人が結局、先に行く」ことに気付いたのです。一般道を運転している場合、慌てて走っても、目的地に着く時間はほとんど変わりません。先に行かせてあげても自分が到着する時間は変わらないのです。むしろ自分のペースで運転できる方が安心で周囲の状況確認ができるので、目的地までの適切な道を選択することで先に到着することもあります。

先頭に立つことが目的ではありませんから、目的地に到着する時に自分の思う時間に着くと良いのです。私達は同業であっても、同じ時を生きていても、目的地が同じだとしても、そこに辿り着く方法はそれぞれ違いますし、走るスピードも違います。同じ舞台で競争している訳ではないので、急いでいる人には先に行ってもらうと良いのです。自分は自分のペースで走り、目的地に到着できたら良いのです。必要以上に急いだらペースが狂うことがあり、アクシデントや予期しない出来事があると、道を譲ってもらい先頭を走っている人が後で到着することもあるのです。

公道を走るのはレースではありません。仕事は自分の実力で戦うものですから、他人とのレースではありません。人生のゴールは自分ひとりのものですから、誰かに道を譲り先に行ってもらっても結果に影響はありません。

最後に先頭に立つのは、日頃から練習を重ねていて長いレースを自分のペースで走り切る人。人を危険な目に遭わせるようなスピードで走るのではなくて、周囲と助け合って共に目指すべきゴールに向かってゆっくりと急ぐ人だと思うのです。 最後に自分が目指すゴールに先頭で立てる人になるには、ゴールの違う人を先に行かせてあげられる人かも知れません。