コラム
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2013/10/15
1342    夢の超特急

夢の超特急。懐かしいキャッチフレーズです。昭和39年10月に開通した東海道新幹線が誕生した秘話を聞かせてもらいました。東京と大阪を結ぶ弾丸特急計画は戦前からあったそうです。しかし第二次世界大戦で計画は中止、戦後、焼け野原になった国土は復興させることが先決で、鉄道敷設は二の次と思われていました。

国鉄の技術者達が国に対して弾丸特急建設の要望するのですが、大蔵省は「国が焼け野原になっていて復興を優先させている中、夢の超特急のような計画に予算をつけることはできない」と断わられ続けます。

それでも日本国のために夢の超特急は必要だと考える技術者達は諦めませんでした。ある時、国鉄の技術者達は大蔵省の主計局職員と話し合う機会を持つことができました。国鉄の宿舎で日本酒をお茶碗に注ぎながら懇談は始まりました。技術者達の鉄道は日本復興に必ず役立つという話と熱意が、やがて大蔵省主計局職員の心に伝わることになりました。

決して日本酒が新幹線の開通につながった訳ではありませんが、この主計局職員は新年度予算に夢の超特急に対する調査費をつけたのです。調査費がつくということは実現に向かうということです。

その後、昭和34年に国の予算がつき、昭和39年の東京オリンピックの年までに開通させるための建設が始まったのです。東海道新幹線は5年で開通するという、信じられない速さで建設されていますが、それは国鉄の技術者達の情熱があり、それに呼応した主計局職員の決断があったのです。

技術的には戦前の弾丸特急計画があり、事前に調査や計画が進められていた箇所があったことから早期開通につながったのですが、調査費の計上が一年でも遅れていたら昭和39年に開通できていなかったと思われるということです。

技術者達には夢の超特急を走らせるという情熱と夢があり、それに応えたわが国先を見据えた役人がいたのです。それが東海道新幹線を走らせた元の要因だったのです。

元主計局職員の方から聞きました。「予算は数字で見てはいけない。予算は相手の目を見て、その目が燃えているかどうかで判断することが大事なこと」だそうです。その目は情熱を宿し、夢を語っているか。それが予算をつけるポイントだそうです。

優れた銀行員も同じことを言っています。「経営者の目が燃えているかどうかで融資の決定判断をします」ということです。経営者が情熱も将来の夢も持っていなければ、自分の言葉で語れなければ、銀行が融資してくれることはありません。情熱を持ち夢を語ることで相手の心を動かすことができるのです。

東海道新幹線の誕生の秘話を聞かせてもらい、その当時の国鉄の技術者と大蔵省主計局職員の出した答えが日本をその後の繁栄に向かわせたと思うと、人と歴史の凄さに驚く以外ありません。誰が計画するのか、誰が訴えるのか、誰が対応するのかによって、その後の歴史も発展も違ってきます。

奇しくも2020年の東京オリンピックが決定し、鉄道は新幹線からリニアモーターカーの時代へと舵を切りました。リニア計画が発表されましたが、ここでもJRの技術者達と財務省との間で、熱い議論と夢が語られたに違いありません。