コラム
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2013/10/2
1336    社会の循環

今ではずっと昔の小さい頃、コンクリートミキサー車に乗っている親戚のおじさんがいて、とても大好きでした。乗っている生コントラックは格好良くて、大きくて、やさしいおじさんが助手席に乗せてくれるのが大好きでした。

ただ家は貴志川町、現在の紀の川市だったことから、会う機会は多くはありませんでした。だから余計に、たまに来てくれる時が楽しみだったのかも知れません。夏休みに貴志川町に泊まりに行くことが楽しみでした。とても遠くの町に行くような気がして、いつもと違う町で泊ることは楽しいイベントでした。貴志川町には和歌山市で見つけることのできなかったカブトムシもいて、昆虫採集も楽しい夏のイベントとでした。それは何歳の頃の出来事だったのでしょうか。小学校1年生か2年生の頃だったと思いますから、今から45年も前の昔の話です。

突然、こんな記憶が蘇ったのは、そのおじさんが病気になったからです。自宅で療養中となっています。勿論、病に勝って元気な姿を見せてくれると思いますか、遠い記憶の中でいるおじさんから、今は年齢を重ねたおじさんになっています。かつての大きくて強いイメージがあるだけに少し寂しい気持ちがありますが、やはり僕の中では生コンのおじさんです。

大好きなビールはカロリーが高くて飲めないので、低カロリーのビール、それも小さな缶ビールを飲むのが楽しみだと聞いています。今でも毎晩、それを美味しそうに飲んでいるようです。

もうひとつ好きなものはカラオケで、時々、家族と親戚とが集まり、カラオケに行っているようです。ただ、かつては歌いまくっていたようですが、今は歌ってくれる歌を聴いているだけだそうです。それでも幸せそうな表情で、みんなの歌を聴いているようです。

恰幅の良かった身体は痩せているのですが、大好きなビールとカラオケができている療養生活に温かいものを感じます。

平成25年の現在、あの時から45年の時が過ぎています。かつては自分で行くことができなくて遠いと感じていた貴志川町は、それほど遠くないことを知っています。和歌山市から車で行くと30分もあれば到着する距離です。和歌山市から貴志川町までの道路が整備され、行き易くなっていることは事実ですが、子どもが大人になったことが時間短縮の大きな要因です。自分で自由に行くことが出来る。それが大人の行動であり、子ども時間と違う大人の時間を自分の意思で創り出せるのです。

大人の時間を得て行動範囲や交友範囲が増えるにつれて、大好きなおじさんとの時間は減っていきました。あんなに大好きで、大きくなったら生コンの運転手になりたいと思っていたのに、今では道路で見掛けても見向きもしなくなってしまっています。

子どもの時の憧れが、今では町にある普通の職業の光景になってしまいました。大きくて強いものに憧れていた子どもも、今では現実の社会で人波に溺れそうになりながらも生きています。もしかしたら、かつての生コン運転手がそうだったように、力強く生きているのかも知れません。社会は停滞がなく進歩を続けています。かつて社会を支えてくれた人が療養生活を過ごし、子どもだった人が社会を支える一人になっています。少し寂しいけれど、こんな素敵な人の社会の循環を感じられることは良いことかも知れません。