コラム
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2013/8/29
1317    二人の投手

平成25年8月の新幹線の帰路「プロ野球愛された男たちの墓碑銘」を読みました。二人の元プロ野球選手のことが書かれています。元広島カープの津田恒実投手と元福岡ダイエーホークスの藤井将雄投手です。二人とも32歳の若さでこの世を去っていますが、今もファンに愛され続けられています。津田投手は野球殿堂入りを果たしていますし、藤井投手の背番号15は今も空番号になっていて、福岡ヤフオクドーム15番ゲートは藤井ゲートと呼ばれています。

二人がチームメイトからもファンからも愛されたのは、短い現役生活と生涯でしたが、命懸けの全力で現役生活を駆け抜けたことが強く印象に残っているからです。

津田投手は炎のクローザー、藤井投手は魂のセットアッパーとして活躍しました。短いイニングを全力で投げ抜くスタイルは二人に共通しているものです。

何故か、追い求めるものを得ることなく途中で人生を終えてしまった人に惹かれます。最後までやり遂げたかったという無念さを思うと、この人としての生き方を無駄にしないためにも自分は何かをやり遂げなければという気持ちになるからです。会ったことがなくても全力で生き抜いた人生を読むと、人生には少しも無駄にする時間などないことを知らされます。

二人が実質活躍した年月はわずか数年間です。長い長い努力を積み重ねてプロ野球選手となり、一軍で投げられた期間はわずか数シーズン。記憶の中に宿るのは一瞬の輝きだけですが、いつまでも忘れられない選手です。

人はいつか訪れる日のために助走をしています。陸上競技と違うのは、人生の助走期間はどれだけ走り続けるのか分からないことです。飛び立つ瞬間がいつ訪れるか分からないけれども、助走し続けなければならいなのです。助走をして勢いをつけておくことで、いざという時に備えられるのです。そして分かっていることは、長い長い助走期間を経て飛び立ったとしても羽ばたける期間は短いということです。

努力をしている期間は長くても、羽ばたける期間は思っているよりも短いのです。もしかしたら自分が羽ばたいていると分からないままに、飛翔の期間を終えてしまった人がいるかも知れません。野球の9イニングの中で登板するのはわずか1イニングだけ。32年の人生の中で輝いたシーズンは数シーズンだけ。その中に輝きが充満しています。どんなに短くて物足りないことを分かっていても、人はその短い輝きを追い求めます。

人はその輝きを終えた後も生きることになります。そのことも知っているのです。だから一瞬の輝きを放った後、突然、人生に終わりを告げた藤井選手や津田選手のことを眩しく感じています。

もっと生きたかっただろうし、現役時代を終えても後輩の指導に関りたかったと思います。そんな生きることへの思いは、二人のことを知っている誰かが後を引き継いでいると思います。野球の世界とは違うところでも、二人の生き方を励みにしていると思うのです。

最後に二人の章の最初のページに書かれている形容詞を紹介します。

藤井将雄投手。絶対に逃げない荒波に立ち向かった魂のセットアッパー。

津田恒実投手。もう一度投げたい。最後まで諦めなかった心優しき炎のストッパー。

絶対に逃げない。最後まで諦めない。この言葉で締め括るのが相応しいと思います。