コラム
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2013/6/10
1269    続けたことが才能になる

書道家の山西未成子さんの話を聞かせてもらいました。山西さんは学生時代、書道家に師事して長い時は一日5時間もお稽古したそうです。その高名な書道家は、書道の技術については伝えたいものを伝えてくれたのですが、それ以外に精神的なものなど伝えてくれたのが今につながっているようです。

それは書道だけをするのではなくて、音楽や映画、絵画、スポーツなどを観て、またファッションにも関心を持ち、心の領域を広めることが書につながるからです。書道とは古いものを知り、新しいものを創造していく仕事です。過去の書道家の技術を真似て、そこに潜んでいる心を知ります。そしてそれらの基礎を基にして自分の書を作り上げていくのです。書道とは哲学のようで過去の書道家の思想や歴史的背景などを学び、良いものを感じ取る力を養うのです。

基礎ができて自分の作品に取り掛かります。お稽古では先生から渡された手本を基にして、何度も筆で修正されます。そして帰ってから自分で練習することを繰り返します。

書の作品は1,000枚書いたところで準備段階を終えることになるそうです。100枚や200枚書いただけでは話にならないそうです。1,000枚を書き終えてウォーミングアップ終了で、そこから文字の配置や空間を形成していき、作品を通じて自分の世界観を確立させていきます。ここまで到達すると技術ではなく世界観なのです。2,000枚も書くと、描いていたイメージが表現できるようになり、そこから不思議な世界に到達します。イメージを超えて天から何かが舞い降りたように勝手に文字が紙に書かれていくようになるのです。イメージを超えて表現されるものが作品として仕上がります。

多い時は一つの作品を仕上げるのに6,000枚も書くことがあるそうです。ある年には仕事の依頼を受けたことから8作品を書き上げました。8作品を書き上げるのに要した枚数は、何と12,000枚だそうで、1作品あたり2,000枚を書いたことになります。出展または年鑑などに掲載する作品に仕上げるためには、それだけの枚数を書かなければならないのです。100枚や200枚ではない、1,000枚を超える枚数を書いて人に見てもらえる作品になる。その精神力と世界観が人を魅了することになります。

また「扇」というたった一文字を書にするために、書以外のことに触れたそうです。扇をイメージするために能楽を見せてもらい、能を舞う横で鼓を打って、能の舞いと扇について研究したのです。扇が開く時、半分閉じた状態の時、扇はそれぞれの行為に意味を持たせています。書を書くために能楽を経験するなどイメージを体得して、また書き直すのです。一つの文字には作者のそんな世界観が潜んでいるのです。

最初から才能を持つ人はいません。書道のお稽古は相当な時間を掛けていますが、毎日ひとつのことを3回、15分を続けることで、そのことが自分の才能になっていきます。才能がないのではなくて、才能を作り上げることをしていないだけです。毎日同じことを繰り返すことが才能へと変化させるのです。才能は与えられるものではなくて、自分で作り出すものです。作り出すために必要なことは毎日一つのことを続けることだけで、それ以外はありません。

続けたことが才能になる。それを覚えておきたいものです。