コラム
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2013/5/13
1253    おもてなしの気持ち

ある飲食店経営者を訪ねた時、その方は片付け事をしていましたが、作業を止めてとても丁寧に応対してくれました。「仕事をしているのに申し訳ないです」と話をしたところ、逆に「片桐さんの大切な時間を、私がここで独占することはもったいないことです。活躍できる時間をここで費やしてもらっているのですから歓迎するのは当然のことです」という言葉を頂戴しました。

この言葉とおもてなしに感動しました。相手の大切な時間をこれだけ思ってくれている人と言葉に出会ったからです。ここで学ぶべきことがあります。誰かが自分と会ってくれている時間は、その人にとってとても大事な時間だということです。

そんな大事な時間を自分のためだけに費やしてくれていると思うと、感謝の気持ちでもてなす気持ちになるのが当然のことです。その人が自分の話を聞いてもらえるのは当たり前など絶対に思ってはいけないことです。時間は誰にとってもこの世で与えられている宝物です。自分の都合で無駄に使わせるようなことがあってはならないのです。

そして誰か一人でも、「あなたの時間はもっと大きなところで使ってもらいたい」と思ってくれる人がいることは嬉しい限りです。「こんな仕事をしている時間はもったいないので、大きな仕事をしてくれることを望んでいる」。挨拶や訪問はいらないので和歌山市のためにこの国のために力を出して欲しい、そんなことを伝えてくれる人がいてくれることは本当に幸せです。

そして少し寒いからと言ってコーヒーとお菓子を出してくれました。支払いをすると言っても受け取っていただけませんでした。飲食店経営者にとってコーヒーは大切な商品なのでお支払いするのは当然なのですが「来てくれても何もできないので、せめて心身とも温まっていって下さい」という気持ちを頂戴しました。

お菓子は「お腹がいっぱいで食べられないので、他のお客さんに出してあげて下さい」と辞退したのですが、逆にそのことで袋に入れてくれたのです。「食事を取れない時もあると思います。そんな時に車の中で食べて下さい」と袋を渡されました。どこまでも相手のことを大切にする気持ちに触れて、とても幸せな時間と空間になりました。

おもてなしの気持ちは言葉に詰まっています。おもてなしの気持ちは一杯のコーヒーにも入っています。接する態度にも表れています。そして別れてからもその人を思いやる行為で伝わってきます。

このお店の経営を一人で行っています。大きく広げないのは、自分が行き届く範囲のサービスが提供できる限界なので、お店を大きくしてしまうとお客さんと接する時間が短くなるからです。おもてなしは人と人との距離、そして交わす言葉、ワン・ツー・ワンの関係で濃いものになります。人と人との距離が遠のく、会話の時間が短くなる、一人対複数の関係になると、おもてなしの気持ちの伝わり方が薄れてしまいます。

その一人に対する気配りと目配り、そして会話ができる距離と関係を保つことが、おもてなしに必要なことです。

そして最も大事なことは、あなたの時間を私のところ(私のお店、私の旅館)で費やしてくれているのだからこの瞬間を一番大切にしたい」と思う気持ちです。