コラム
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2013/3/5
1208    千里同風

航空自衛隊の用いている言葉に千里同風という言葉があります。一里は4kmですから千里は4,000kmを表します。つまり日本全体を千里と表現しているものです。そして同じ風は同じ風が吹く場所ということで、日本はひとつだということを表現しています。

日本は同じ風が吹く地域でありひとつの国家であることを意味する言葉として使っています。この言葉を合言葉に、自衛隊は東日本大震災の復旧と復興に努めてくれているのです。

自衛隊の活動なくして大災害からの復旧と復興はあり得ません。それほど大変な現場に入ってくれているのです。そんな経験談を防衛省自衛隊和歌山地方協力本部の淵本信一募集課長から聞くことができました。

淵本課長は53歳なので、あと1年で定年を迎えることになります。定年を間近に感じるようになった時、「自分が残すべきものはあるのか。自分が築いてきた財産は何なのか」と自問するようになったと伺いました。先輩達が自衛隊員として伝え残してくれたものと同じような価値のあるものを組織に残すことができるのか。誰にとっても同じ事ですが、組織に対して自分の財産を残すことが最後の仕事になります。

自分が残すべき財産とは、結局のところ経験以外にないのです。マニュアルや仕事のやり方などは財産ではありません。自分が経験して学んだことを残すことが財産を残すことになるのです。そうすると現役時代にすべきことは、人よりも苦労する経験、人と出会って組織以外の価値を学ぶ経験、自分が成長していると感じられる経験などになります。規程や基準に沿った仕事などは誰にでもできるものであり、既に組織内で標準化されているものは自分の財産ではありませんし、組織に残すべき新しい価値とはなりません。

渕元課長が体験した最大級のもののひとつに、東日本大震災直後の現場に入ったことがあります。想像を絶する中で体験したことは財産であり、組織に残すべきものなのです。

生きるという強い気持ちが窮地に直面した時に必要なものであり、自分は絶対に助かると思うことが大事なことなのです。助からなくても良いと諦めてしまうことは家族を不幸に巻き込むことになります。自分が諦めて災害に飲み込まれたとしても、生き残った家族はあなたが死んだことを知りませんから、必死で捜索することになります。そしてあなたを見つけた時に絶望感を感じることになるのです。あなたが死ぬことは全力で生きようとした家族を悲しませ生きる力を弱まらせることになります。

家族だけではありません。命を賭けて自衛隊員があなたを捜索してくれるのです。国を守る、人を助けることが自衛隊の役割であり、私達も国を思い、自分は強く生き抜くという同じ思いを持つべきです。

大災害の現場立って経験することは、強く生きること、人と国を守ることです。それが人としての誇りであり財産なのです。そんな経験こそ組織に残すべきものなのです。自衛隊員でなければそんな経験はできませんが、社会人であれば所属する会社や組織に財産を残すべきなのは同じです。強く生きること。仕事を通じて成長した経緯。そして国を支え会社を支えた自分だけの経験です。一人の個人は歴史の一部分を見ているに過ぎない存在ですが、一部分が欠けると歴史は変わります。経験という財産を伝え残すこと。それが自分の存在を千里同風のものにしてくれます。