コラム
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2013/1/29
1187    近づく

一流の映像カメラマンとの話です。一流と二流の分かれ道は「近づけるかどうか」だと教えてくれました。捉える対象の人物やモノ、イベント等にどれだけ近づくことができるのか。その勇気を持つことが一流に必要な資質です。

二流の人が撮った映像は編集がし難いと言います。遠くからの映像が多く編集しようにも変化がないので一本にまとめ難いのです。

「素材が悪ければ調理できないでしょう」と調理師に例えて話してくれました。新鮮な食材であれば調理できますが、食材が古くて品質が良くなければ、どれだけ一流の調理師が調理しても良い料理に仕上がらないのです。この人は撮影も編集もする映像カメラマンですが、映像もそれと同じだと言います。

対象近づくのが難しいのは、自分の感性が試されるからです。例えば話をしている人の表情を捉える瞬間は、話の大事なポイントの時にアップにしなければなりません。ポイントを外せば映像カメラマン失格です。話し手、会場の表情など、どこがこの場面のポイントなのかを瞬時に判断し撮影することが求められます。近づく、離れる、そして近づくなど感性を磨き高めることがプロです。

近づいた映像は評価されますから、的外れと評価されることが怖いのです。しかし対象に近づかなければ一流にはなれません。

以前、撮影してもらった写真家の作品でも同じことがありました。ポスター用の写真を撮影してもらってポスターデザインのところに仕事が回りました。顔写真の横に、キャッチフレーズなどの言葉を挿入する作業があります。その時、写真と文字を組み合わせるのですが、デザイナーからこんな一言がありました。

「フレームいっぱいに表情を撮影しているので、キャッチフレーズの位置が難しいんですよね。○○さんは一流だから、どうしてもそうなります。他の一流のカメラマンの作品も、人物を撮影した時は同じように画面いっぱいに表情を捉えているのでデザインが難しくなります」という話です。尤も、一流のカメラマンの作品なのでデザイナーも仕事のやりがいがあり、仕上がった時は一流の作品になります。

写真でも一流のカメラマンは対象に近づき、作品のテーマに沿った表情を捉えているのです。確かに、構図の構成を恐れないで対象に近づいています。ひとつの主題を、思い切り表現できるように画面を切り取るのです。

映像も写真も近づくことが一流であるようです。このことは参考になります。申し出のあるお客さんに近づいて応対すること。怖い上司に近づいて自分の主張を述べ議論を交わすことなど、相手近づくことはリスクがありますが、そこから得られる結果があります。

対象に近づかなければ解決できないこともあります。傍観者、評論家の立場は遠くからなので気楽ですが、対象に近づかないので決して主役にはなりません。問題のある現場、辛い立場の時、怖い上司など、近づきたくない場面がありますが、自分の考えを基に近づいてこそ、解決できることもあります。恐れないで近づくことも「あり」です。