コラム
コラム
2012/11/22
1148    本気

中村文昭さんという企業家の話を伺いました。中村さんは伊勢市で結婚式場を経営されている方ですが、ここに至るまでの道程の中の一つのエピソードを紹介してもらいました。

東京の修行時代のことです。当時の社長から、次のように言われたそうです。「六本木でレストランとバーを経営することになった。ついては君が責任者として経営してもらいたい」。当時、中村さんはレストラン経営をしたことがなく、バーに行った経験もなかったのでどんな仕事なのかも分かりませんでした。社長に対して「経営のやり方が分からないので私には無理です」と答えました。社長は「分からなかったら分かる方法はある。人に聞くことや本で調べること、やる気になればできるからやりなさい」と言われたのです。

そこでお店が完成するまでの間、ホテルオークラの調理場に見習いで入り飲食業のことを知ろうとしました。ところが調理場に入ってもアルバイトの身分ですから皿洗いばかりの毎日で、調理の現場には入ることすらできませんでした。

そんなある日、予定していた食材であるレタスが不足したのです。料理長が「レタスがない。誰か買ってこい」と大きな声で叫びました。咄嗟に中村さんは料理長のところに走り、「私が買ってきます」と言ってホテルを飛び出しました。短時間でレタスを調達して調理場に戻りました。余りの速さに驚いた料理長は尋ねました。「どうしてそんなに本気になったのか」。中村さんは、素人なのにレストラン経営を任されることになって困っていることを伝えました。料理長は即座に調理場に配置換えをしてくれ学ばせてくれたのです。超一流の調理場で先輩から現場経験を学ぶことができたのです。

そして六本木のお店のオープンの日。ホテルオークラからスタッフがお手伝いに来てくれました。「初日に失敗してはいけないので見守るように」というその料理長の指示があったからです。

お店が成功したのは、中村さんが真っ先にレタスを買いにいくと言う意思表示をして行動したからです。それで料理長という調理場の最高責任者から信用を得たのです。中村さんがレタスを本気で買いにいったのは理由があります。こんな経験があったのです。

その社長が現場にいた時、お客さんが来られました。社長は中村さんに向かって「缶コーヒー買ってこい」と指示したのですが、中村さんはゆったりと歩いてお店を探した後、缶コーヒーを社長に渡しました。すると社長から叱られました「お前は分かっていない。人から頼まれたら走って買ってこい。頼まれたことは本気でしなければ誠意は伝わらない。私が現場にいるのだから、お客さんには缶コーヒーでもてなすことができるだけの状況だから、急がなければ意味はないだろう」という意味で叱られたのです。

その経験があったので、オークラの料理長が困っている時に本気で対応しようと思ったのです。本気は人の気持ちを揺り動かします。そして自分が本気になれば周囲を動かせる力が宿るのです。

こうして素人のレストラン経営は成功します。やろうと思うと絶対にやれるのです。やれないのは本気になっていないからです。本気が物事の成否を決定します。