コラム
コラム
2012/10/30
1135    小春日和

和歌山県出身の筝曲家、西陽子さん。秋の日に、言葉でも身振りでも伝えきれないような、とても素晴らしい音色を聴かせてもらいました。西陽子さんの琴の音色は心に忍び込んできます。演奏を見て聴いても素晴らしいものがありますし、目を閉じて聴いても情景が伝わってくるのです。琴の音を聴いていると風が吹く景色。水が流れ出す景色、鳥が羽ばたく光景などが浮かんでくるのです。こんな琴の音色があることを初めて知りました。感動を伝えてくれる音楽がここにあります。

西陽子さんのコンサートは約1時間でしたが、1日に相当するように感じられましたし、逆に1分で終わってしまったようにも感じます。静かなコンサートでしたが、観客がこれだけ涙したコンサートは初めてです。西さんが弾く音色はそれぞれの人の記憶や思いに響いてきます。心の琴線に触れたことで涙が零れるのです。前を見ても、横を見ても涙を拭っている人がいました。いつも頑張っている皆さんが、ふっと立ち止った瞬間です。立ち止ると見える景色があるものです。走っていると見えない景色が止まると見えることがあるように、西さんの琴の音色は人を立ち止らせ、心で見るべき景色を見させてくれる力があります。心で見える景色とは、現在の自分の姿でもあり過去の自分の姿でもあるのです。

そうそう自分の姿を見させてくれる音楽に出会えるものではありません。立ち止まった1時間は、内心を見つめられた貴重なものでした。

会場には西陽子さんのお父さんも来られていました。少し体調を崩されているようですが、滅多に聴くことができない子どもの演奏を楽しんでいるようでした。秋桜がとても大好きな曲だそうで、秋桜の演奏に涙が伝っていたことを後で聞きました。父から娘に贈ったのがあると思いますが、今度は娘から父へ贈り物を届けているように感じます。かつて子どもを教え導く立場であった父ですが、娘は大きく成長し、自分の生きた経験と技術によって今度は父やみんなに感動を与える立場になりました。会場での感動は親子の愛情表現からも伝わってきました。

音楽家は演奏で思いを表現し、私達に感動を伝えてくれます。スポーツ選手はプレイにおいて感動を伝えてくれます。政治家は発する言葉によって何かを伝え感動を与えることを考えています。西陽子さんの演奏がそうであるように、私は言葉の力で多くの人に感動を提供したいと思いました。

他にも多くの皆さんが秋桜の演奏で涙を流していました。ここに思い出も思い浮かべる景色もあったからです。振り返れる過去があること、振り返って懐かしい自分が存在していることは素晴らしい人生であることの証明です。

そして今日も振り返れる一日になりました。つまり幸せを感じた一日だったのです。幸せな一日を過ごせる人が幸せな人生を過ごすことができます。一気に大きな幸せが訪れることよりも小さな幸せを毎日味わう方が、幸せの総量は大きいのです。こんな日々の小さな感動の積み重ねが幸せな人生へと続いていきます。

小春日和の一日にありがとうと言いたい気分です。