コラム
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2012/7/13
1075    天の配剤

平成24年6月20日を以って閉店した和歌山市にある喫茶エビアン。地域の皆さんに愛されていただけにとても残念です。閉店が決り、閉店の当日、店内は多くの常連のお客さんで賑わっていました。残念で涙を流しているお客さんもいた程です。姿あるもの、いつかは消えるのが定めですが、やはり馴染みのお店が閉店すること寂しいものです。

店主も寂しそうに「7年間やってきましたが、採算面からもう限界です。でも宝物が残りました。多くの皆さんと出会えたこと。閉店の知らせを聞いて駆け付けてくれた人がこれだけ沢山いること。そして涙を流してくれる人がいること。これらは全て財産です」と話してくれました。

お店をやっていたことから、多くの人との出会いがありますし、その中から信頼できる人や心を許せる人に出会います。そんな出会いが人生の宝物なのです。喫茶を経営していなければ、これだけ多くの出会いも別れの時の寂しさも感動もなかったのです。経費や維持費がかかったと思いますが、変わりに代え難い財産が残りました。きっとこれからの人生において、今より以上に輝くことになります。

店主と話しをしながら香りの良いコーヒーを飲んでいた時です。近くの会社の人が扉を開けました。「今日何時まで開けているの」と聞きました。店主は「6時30分までですが、来てくれるまで待っていますよ」と答えました。その人は仕事があるので「分かりました。それまでに戻ってきます」と言って残った仕事に向かいました。

店主は「あの人はとても信頼できる人です。その会社で一番信頼できる人ですね。何よりも人の気持ちが分かる人ですし人情があります。閉店の日の最後の時間に来てくれるのは嬉しいことです」としみじみ語ってくれました。

気持ちのある人だから、閉店の日を覚えていて、そして閉店前に姿を現してくれたのです。そんな気持ちが店主に伝わっていますし、私にも伝わってきました。偶然ですが、その人のことは私も知っています。とても評判が良い人なのですが、店主から信頼できる人だと聞いて嬉しくなりました。

やはり良い人は裏表がなく、その人に見せる表情が全てなのです。人の評価が分かるのは利害関係のない第三者からの意見からです。職業に貴賎はありませんが、特に近所のお店、社員ではないパートさんやアルバイトで仕事してくれている人などの評価が確かです。

人は上役や目上の人に対しては丁寧な態度をとります。しかし自分よりも下に思っている人に対しての態度に本心が表れます。上役には挨拶をするのに目下の人には挨拶をしないし話しかけることもしない人がいます。そんな人は気持ちがないのです。どんな人にでも社会の中で役割を担ってくれている限りは、その役割と人格に対して自然に起きる感謝の気持ちで接したいものです。

エビアン閉店の日、偶然近くに来ていました。そして道端で店主に会って挨拶をしたことで閉店することを知りました。これも天の配剤です。閉店の日に私をここに向かわせたのです。これまでのお礼と感謝の気持ちを述べさせるために。ありがとうございました。