コラム
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2012/5/28
1044    一分一秒

陸上競技の福島千里選手。ロンドンオリンピックを目指す100メールと200メートルの選手です。この福島選手が五連覇に挑んだ2012年の静岡国際陸上女子200メートルですが、結果は2位でした。その時のコメントが印象的でした。二位に終わったことについてのインタビューで「ロンドンオリンピックのために一分、一秒を使いたい」という言葉を使いました。福島選手が今を生きていることを感じました。

目指すべきものがあることによって苦しさが生まれますが、その中で気持ちの強さ、そして頑張れる力も同時に生まれるのです。苦しさと頑張れる力は同時に誕生します。人は楽を好みますから、苦しくないのに頑張る必要は感じないのです。そして人は人生における目指すべきものを設定した瞬間から苦しみが生まれます。高いところを目指そうとすればするほど苦しみは大きく、更に不安も大きくなって襲ってきます。目指そうとするものには期限が付き物ですから、時間の経過の割りに結果が伴わなければ苦しみも不安も膨らんできます。

時にはその場から逃げ出したくなる場合や、他人から聞かれることを避けたい場合もあります。諦めてしまったら今まで心の中にあった苦しみから解放されることは分かっていても、それが本気で目指しているものだったら、結果が出なくても尚、苦しみに立ち向かうのです。そして残された時間が一分でも、一秒であっても、最終的な結果が出るまでは頑張り続けることを選択するのです。

オリンピック出場という目標は常人では想像できない程の高い壁であり、苦しみと不安に襲われていると思います。陸上競技選手の選手寿命は長くありませんから、生涯で一度だけの挑戦になるかも知れません。そんな崖っぷちに立っているような状況でも、目指すべきものがあると踏ん張れるのです。

期限付きで目指すべきものが少ない世界に生きている人にとって、今ここにある一分一秒を大事に思うことは少ないのです。何もしないでいる間に過ぎてしまうのが一分です。息を吸って吐いている間に一秒は過ぎています。つまり意識しなれば一分も一秒という時間も感じることはないのです。普段の生活で一分や一秒を感じるのは、ギリギリに駅に着いて電車の時間に間に合うようにホームの階段を走っている時ぐらいです。流石に大事な用件があり電車に遅れると不味い場合は、走っている一分一秒が研ぎ澄まされた時間になります。

そんな研ぎ澄まされた時間を、オリンピックを目指している福島選手は常に感じているのです。実に羨ましい、そして実に苦しい時間を生きています。研ぎ澄まされた時間を頑張り続ける以外に、苦しみから逃れ不安から脱出する方法はないのです。頑張り続けることとは練習を続けることを指します。

目指すべきものに対して私達は研ぎ澄まされた時間を過ごしているのでしょうか。濃密な時間の中での練習を続けているのでしょうか。本気で目指すということは一分一秒の過ぎる時間を感じ、その時間を生きることです。ぼーっとしていては時間を感じることはできません。一分一秒の世界を感じられる。そんな生きていることを実感する仕事をしたいものです。