令和6年6月定例会一般質問 / 質問内容

1.賃上げについて

持続的な賃上げについて

一般質問

おはようございます。議長のお許しをいただきましたので、通告に従い一般質問をおこないます。今回は大企業が賃上げをした結果を受けて中小企業も賃上げに追従しています。その増えた賃金が飲食店や商店街で使われて地元経済が回っていくようになるその循環を和歌山県がどのように支援していくのかの議論にしますので、よろしくお願いいたします。

連合和歌山によると、令和6年春闘において企業から回答を得た組合の定昇相当込み賃上げの加重平均は15,236円、率にして5.08パーセント。300人未満の中小の同金額は11,361円、率にして4.45パーセントであり、比較可能な年度以降では賃上げ額と賃上げ率ともに過去最高となっています。

県内では、日本製鉄が組合要求の3万円に対して、会社回答が3万5千円という異例の決着を見せています。

春闘について同社の労務担当の三好執行役員のコメントを要約すると、「製造業のトップクラスの水準に引き上げ、一流の処遇のもと、社員に一流の実力を最大限発揮してもらいたい。今回の給与改定は会社にとって、今後の生産性向上を前提にした将来に向けた人への投資」だと話しています。

この背景にあるのは、日本製鉄の橋本英二会長の「賃金抑制は経営にリスク」という考え方です。

そこで日本製鉄の組合員さんと懇談したところ、「社員の給与の総額をどれだけ増やせたかが、私にとっての経営のKPI(重要業績評価指標)ですよ」と、橋本英二前社長が語ったことを伝えてくれました。この発言の趣旨は「社員の給与を上げることは社長の仕事である。それができたことは社長としての誇りである」という意味だそうです。

会長の言葉が職場に浸透していて働き甲斐のある社風だと感じました。

この話をきっかけに現在の日本製鉄に興味を持ち「日本製鉄の転生」を始めとする資料を読んだところ、橋本会長は「社員の給与をどれだけ増やせたか。それが社長としてこだわる指標」として「ついてきた社員たちに報いる。社員たちのやる気を引き出し、さらなる利益拡大に挑む。そのサイクルが着実に周り始めている」と話しているように、オールドエコノミーの代表的企業である日本製鉄が変わっているのですから、他も変われないはずはありません。

今回の賃上げに至る道筋について説明を続けます。日本製鉄は社員の給与を上げるための原資を確保するために取引先と価格交渉をしたように、適正価格で商品を取引するという当たり前の営業活動を行っています。

その結果、「世界最高品質の製品を世界で一番安い価格で販売していた」言われていた製品を適正価格に転換することができ、社員の給与アップにつなげています。この社長の考え方と企業姿勢は見習うべきだと思います。

適正価格で取引できない説明として、日本企業は長年の行き過ぎた「顧客至上主義」の考え方が浸透していたことを上げられます。いつの時代からは分かりませんが「お客さんは神様です」の言葉が社会に浸透し、お客さんの言うことは何でも聞く姿勢が企業に求められてきました。

そのたどり着いた先が現在で、「カスタマ・ハラスメントは社会全体、とりわけサービス業の大きな問題になっています。県庁や役所でも同じ問題に晒されているのではないでしょうか。JR東日本や全日空、イオンなどではこのカスタマ・ハラスメントに「対応しません」と打ち出しているように、顧客至上主義は苦情に割く時間が増え、製品原価を押し上げることになります。

一般質問

少し論点がそれましたが、社員の給与を上げることが社長の使命であり誇りであるという言葉に感動を覚えますし、「人への投資」は現代の企業が持つべき価値であり、全ての企業が見習っていくべき姿勢だと思います。

「顧客のためなら」という大義名分は、部分最適にはなっても会社全体の利益を害します。そうなれば企業の競争力を損なうのは当たり前のことであり、それは商品やサービスの恩恵を受けるお客さんに跳ね返ってきます。

わが国はデフレ経済から脱却できなかったため、給与が上がらなかったことや企業の利益率も欧米の有力企業には及ばない体質に陥っていました。デフレから完全に脱却するためには、今春賃上げをした企業は、来春以降も賃上げの機運を経営者側と労働組合側が維持し続けなければなりません。

和歌山県は、この「賃上げできたことを誇りに思う」と語った経営者の姿勢に見習い、賃上げに向けた方向性を地元企業に示していく必要があると思います。

さて今年4月、日本銀行出身で法政大学経営学部の平田英明教授、および経済学者で東京大学名誉教授の伊藤元重さんの講義を聴いてきました。伊藤先生の著書で「入門経済学」は、基本書として経済を学んだ人は読んだことがあると思います。

講演の中で「賃金上昇と新陳代謝」の説明がありました。デフレ経済が続いていた10年前は「賃金を上げなければ日本経済にマイナス」との考えが主流であり、多くの企業は他人事のように考えていたようですが、現在の企業は「賃金を上げないと生き残れない」と自分事だと捉えています。賃上げをしないことには人材が集まらず、または流出して世界との競争で勝ち残れないということです。

また賃金を引き上げることは日本経済にとって不可欠な条件であり、物価が上がって賃金が追従しなければ労働者の実質所得は減少してしまうので、消費性向にもマイナスの影響が出てくるからです。

伊藤先生は、今後、賃金上昇が続くと考えるべき3つの理由を説明してくれました。

ひとつは構造的な人手不足であることです。

現在の深刻な人手不足は、高齢化の進展で15歳から64歳までの生産年齢人口の縮小が続き、高齢者や女性の就業率も世界最高水準に近いところまで来ています。

つまり、今後ともこれ以上の労働力を確保するのが難しい構造的な人手不足になっていることから、更に人手不足は深刻さを増すことが予想でき、企業にとって賃上げは避けられない経営課題となっていることです。

二つ目が、物価上昇が賃上げを促すことです。

デフレ経済下では多くの企業は賃金を据え置いてきました賃金に「下方硬直性」が働き、大半の企業が賃金を据え置いてきたのです。

一般質問

ところが現在のように3パーセント前後で物価が上昇すると、多くの企業は賃金を上げるようになっています。人材確保の重要性を理解し人材の確保に熱心な企業もあり、今春の春闘の結果でも明らかなように約6パーセントの賃上げをした企業もでてきました。

現在のように物価上昇が続いている経済下では、賃金上昇率で企業や業種の間で大きな格差が生まれ、そしてこの賃金格差が労働における新陳代謝を促すことになります。

労働における新陳代謝とは次のようなことです。

インフレは消費者価格を引き上げるなど私達の生活を脅かすマスナスの側面を持っていますが、インフレによって賃上げ意欲が刺激され、結果として賃金格差が生まれれば、労働市場において新陳代謝が強まるので経済の活性化が期待できます。

賃上げというと、社会全体の賃金がどうなるのかという面のみが強調されますが、それはそれで重要な意味を持っていますが、伸びている業種と停滞している業種の間、そして社会的なニーズの大きな職種とその他の職種の間で賃金上昇率の格差が生まれることの意味もあります。

要約すると、賃金を上げられる企業が伸びる企業であり、人材が集まってくるということです。逆に賃金を上げない企業には人材が集まらず、この先、人が集まらなければ伸びていないことになります。

みっつ目は、諸外国と比較して日本の賃金は低すぎる問題です。

講演ではニューヨークとの比較があり、最低賃金が15ドル、仮に為替レートを1ドル156円だとすると時給は2,340円。一か月では一日8時間、25日勤務で458千円となります。後に触れますが、和歌山県の最低賃金は929円ですから、この差は何なのかと思います。

これ以外に伊藤先生の講演で印象に残った話として、ここでも橋本会長の言葉を紹介してくれました。

「値上げ交渉は営業の仕事ではなく、社長の仕事である」です。これは、日本製鉄がトヨタ自動車と値上げ交渉をした事例に基づいた話ですが、値上げ交渉は社長が果たすべき役割だということです。賃上げは一企業だけの問題ではなく社会全体の問題で、賃上げをしない限り社会全体で脱デフレが図れないのです。

現在、物価上昇率が賃金上昇率に先行しているため、賃上げにも関わらず労働者の実質賃金は依然として低く、賃金が物価に追い付かない状況が続く限り、私たちは消費を抑制することになります。穏やかなインフレ傾向は本来、経済に好ましい影響を及ぼすことが期待できるのですが、それには物価上昇に対応できるだけの賃上げが条件となります。

つまり今春の春闘の結果に満足することなく、来春も、それ以降も物価上昇を上回る賃上げが必要になります。

質問1:県内経済の状況について

現在の県内経済の状況をどう捉えていますか。働く人がインフレに対応できているのだろうかと思いますし、県内経済は回復していないという声も聞こえている中、今秋にも利上げ予測もあることからも県内経済を回復させる必要がありますが、知事の答弁をお願いいたします。

答弁者:知事【商工企画課】

片桐議員の御質問にお答えをさせていただきます。県内の経済状況につきまして、最も信頼できる統計としましては、財務省の出先であります和歌山財務事務所の調査が定期的に行われております。これはアンケート調査なんですけれども、企業が今の状況をどう思うのか、良いとか悪いとかというものの引き算足し算ということでございますけれども、今御質問の和歌山県の景気の現状について、この調査によりますと、全ての産業でですね、下向きだと、答えが上向きだという方を上回っているという状況でございます。

また、雇用情勢につきましては、これも全ての産業で「不足気味」が上回っております。また、今後どうなるのかという見通しにつきましても、やはり「不足気味」だという答えが多くなっております。

一方で、7月以降の景気の見通しにつきましては、これは全産業区分では持ち直していくだろうという見方をされているようであります。ただ、これも大企業、中堅企業は「上昇」と見る人の方が多いんですけれども、中小企業では逆に下っていくだろうという見方が多くなっているという状況ですので、そこに少し差があるのではないかと考えております。

コロナ禍を乗り越えまして、県内の経済は、総じて持ち直していくと見込まれておりますけれども、歴史的な円安水準の持続、光熱費や原材料価格の高騰、さらに、先ほど申し上げましたが、人手不足などによりまして、依然として厳しい状況であると考えておりますので、県といたしましては、引き続き経済の状況については、しっかりと注意をして見守ってまいりたいと考えております。

質問2:今春の春闘での賃上げの成果について

元日銀の平田教授は、日銀、植田総裁の考え方を理解して、総裁の利上げの考えについて「いきなり金利を上げるのではなくて、社会と企業に金利のある世界に慣れさせるため情報を発信し始めています」と説明をしてくれました。

その植田総裁は、今年5月の読売国際経済懇話会で、次のように話しています。

「中小企業でも賃金交渉が進んでいます。中小企業の業況は、業種や個社によって様々であり、賃上げが容易ではないとの声も聞かれることは認識しています。地域の中小企業を含む多くの先からは、人手不足感は顕著であり、業況が厳しい中でも人材確保のため賃上げを検討する、との話が聞かれています。

政府が、企業間取引において労務費の適切な価格転嫁が進むよう取り組みを進めていることも、こうした先での賃上げの決断を後押しする方向に作用しているようです。過去を振り返りますと、わが国では大企業における妥結結果が世間相場を形成し、中小企業の賃金に波及していく傾向があり」また「今次局面では、過去みられなかった企業の賃金・価格設定行動の変化がみられました。2年連続で大幅な賃上げが実現し、企業の販売価格見通しもしっかりと上昇してきたのは、デフレ下で社会に根付いた賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が変化してきたことを示しています。先行きも労働需給が引き締まった状況が続くと見込まれることも踏まえると、企業の賃金・価格設定行動の変化は次第に定着していく」というものです。

昨今の環境は、ひとつは金利がある世界に慣れさせるための期間を設けている段階であること。ひとつは社会が利上げに対応できるよう価格改定と賃上げを定着させるということだと思います。

そこで質問です。

日本製鉄の橋本英二会長のように「賃金抑制は経営にリスク」という考え方、そして「社員の給与の総額をどれだけ増やせたかが、私にとっての経営のKPI(重要業績評価指標)ですよ」の発言にあるように、会社経営のあり方と経営者の意識の変化もあって今春も賃上げが達成できたように感じます。橋本会長のような経営者の考え方と今春の春闘の結果について、知事の見解をお聞かせください。

答弁者:知事【労働政策課】

お答え申し上げます。今、片桐議員が縷々御紹介いただきました、橋本会長の御発言については、本当にすばらしい考え方だと思っております。

私も実際昨年ですね、直接会社に行ってお話を聞く機会がありまして、同じようなことをお聞きしまして、大変同感だなと思ったところであります。

その上で、2024年春闘における日本製鉄の労働組合の要求を上回る賃上げの回答というのは、まさにその橋本会長の有言実行の姿であろうということに思いが至ります。

ただ、恐らく、橋本会長の意図は、もう一つあったと思います。春闘というのは、横並びでですね、ある業界が同じ賃上げの金額になってますけど、そんなのはおかしいんですよね。企業ごとに体力が違うわけですから、企業ごとに当然賃上げの幅は違うべきなのに、それが一律であるという、これまでの春闘に対する一つのメッセージだったのではないかと私は考えております。

まさに賃金というのは、その企業の生産性そのものだろうと思っておりますので、そのことをおっしゃりたかったのではないかと考えております。

なお、連合の春闘の結果につきましては、比較可能な2013年度以降で最も高い賃金引上げになったというふうに承知をしております。これは、働く者にとっては、大変喜ばしいことでありますけれども、物価の上昇が続いておりますので、結果として、実質賃金ということで、名目の賃金と物価の上昇を考えますと、なんと前年同月比では25か月、2年以上に渡って、連続マイナスとなっている状況でありますから、当然個人消費は、なかなか元気が出てこないということでありますので、日本経済についてもですね、なかなか厳しい状況が続いているわけであります。

じゃあ実質賃金が、プラスに転換するということのためには何が必要かであるかといいますと、これは各企業の生産性が向上することが必須であります。そのためには、設備投資、更には人材投資が行われることが鍵となると考えております。

これまでですね、アベノミクスによりまして、低金利が続いてまいりました。金利が低いということは、企業がですね、リスクをとる必要がないということであります。

アメリカの金利が5%ということは、借金をして5%で回さないといけない。そのためには、リスクを取って、投資をして、イノベーションを起こす。

しかし、0%だったらそんなリスクを取ってまで投資をする必要がない、というのがこの間続いてきたわけであります。

その結果が、日本経済の潜在成長率を低迷させてきた最大の理由であると私は考えております。

もちろんコロナ禍という特殊要因もありますけれども、それは本質的な問題ではない。アベノミクスによる低金利政策が、起業マインド、起業家のベンチャー精神を衰えさせたということなのではないかと思っています。

ただ、これも片桐議員が御説明いただきましたように、ようやく金利がある世界が戻ってまいりました。金利がある世界が戻ってまいりますと、日本の企業経営者も、これからはリスクを取って、設備投資、人材投資をしてまいります。

そうなりますと、生産性が上がります。生産性が上がることによって初めて、賃金を持続的に上げることができるということですので、それを期待したいと考えております。

質問3:来春の賃上げに向けた取り組みについて

来春も物価上昇率に追いつく賃上げが必要だと思いますから、県として県内企業の経営者への意識醸成の働きかけが必要だと思います。知事の答弁をお願いいたします。

答弁者:知事【労働政策課】

お答え申し上げます。先ほどから片桐議員が御指摘のとおりでありまして、過去最高の賃上げ率を記録したものの、実質賃金がマイナスでありますので、消費が力強さを欠いているという現状がございます。

そんな中で、国としても、賃金引上げに直接的に関わる助成金、税制優遇の他、生産性向上に寄与するための各種補助金の優遇措置など、数多くの制度を設けて、賃金引上げに取り組む中小企業や小規模事業者の支援を行っているところでありますので、国のより一層の支援を期待したいと考えております。

いずれにしましてもですね、先ほど申し上げましたように、賃上げが継続するためには、経営者がリスクを取って、設備投資や人材投資を行うことによって、企業の生産性を上げる他ありませんので。ただ国に言われたから、賃金を上げるということでは、これは付加価値を生みません。

賃金を上げることは、人材投資にはならないんですね。人材投資というのは、リスキリングじゃないんですけど、労働者の能力を上げることが、人材投資です。

それを怠ってきたわけです。単に国に言われて賃上げをしても、そんな企業はあきません。はい、以上です。

「日本製鉄の転生」の中で日本製鉄株式会社関西製鉄所和歌山地区について触れています。

「高合金油井管(こうごうきん ゆせいかん)の世界シェアは7割を上回り、和歌山地区の製造設備はフル稼働が続いている。世界の石油、ガス業界で日本製鉄の油井管(ゆせいかん)は「WAKAYAMA」のブランド名で知られている。鉄鋼業界で地名がブランド名になるのは異例で「君津」や「名古屋」でもなったことがない」そうです。

鉄鋼の分野で世界に和歌山ブランドが知られている、これは嬉しい話です。

和歌山地区の白沢さんは「和歌山で作られた油井管(ゆせいかん)の価値を認めてもらい、それが信頼につながっている」と語っていますが、これも「給与改定は会社にとって、今後の生産性向上を前提にした将来に向けた人への投資」が生産性向上と会社の信頼につながっていると思います。

中小企業の賃上げについて

さて中小企業の賃上げについて話を進めます。

私の友人で阪神間を中心に建築の仕事している若手経営者がいます。今春、地元経営者を交えて懇談の機会を作ってくれました。

一般質問

「若い人が会社を興して頑張っているけれど、元請けからの提示される請負価格は昭和の時代からあまり変わっていないので、中小企業は利益が残りません。実際に仕事を請け負っている会社が苦しむしくみも昭和から変わっていません。

だから小規模な会社はいつまで経っても大きくならないし、社員の給与も上げられないのです。私は社員を守っている自負がありますが、それ以上に社員の家族を背負っていることを意識しているので給与を上げたいのです。

地方都市では、現場で必要なある技術者の日額は、昭和の時代は1日当たり1万5千円から2万円でした。今でも1日当たり約2万円の水準なので、余り変わっていないようです。

請負金額がその水準だと社員に支払える給与を上げることはできません。

つまり今のしくみでは、請負会社か社員のどちらか、または双方が仕事に見合った利を得られなくなっています。

小さな会社が適正な利益を出して社員の給与を上げるためにすべきことは、請負金額を上げてもらう以外にないのです。但し一社だけで大手企業と価格交渉しても、他の会社に仕事が回されるだけです。利益が薄くても社員の給与を上げなければ請け負うことかできるので、そんな古い価値を持つ会社はたくさんあります。

それでは社員も家族も幸せにならないと思っています。だから単価を上げてもらうように仲間の会社と共に大手企業と交渉しています。小さな会社でもまとまると力になるもので、先方との事例で示した技術者の日額は1日当たり、約2万5千円から4万円の水準に引き上げてもらうことができました。日額が上がったので、社員の給与を上げることができました。働いただけお金がもらえるしくみにすることで、中小企業にも人材を集められますし、長く社員として働いてもらえることができます。

取り引き企業の理解を得てようやく改善できつつあります。ただ私がこれまで訪問した地方では、相変わらず請負会社が泣いている状況で、意見を言うことができないので泣き寝入りしているところが多いのです。請け負う会社が意見を言わなければ、いつまで経っても環境は改善されないと思います。どれだけ頑張っても会社は伸びない、人材が集まらない、人材がいないので仕事が回ってこないような悪循環になっています。

これは和歌山県だけではなくて、どこの地方都市でも同じ状況にあります。社長の仕事は、大手企業と交渉して適正な利益が確保できる金額を引き出すことです。それが会社を長く続けることや、後継者に任せられる会社にするために必要なことです。

今までのように我慢しているだけでは、会社は一代で終わってしまいます。和歌山県の皆さんには、社長のやるべき仕事をしてください。それが会社と社員を守ることになります」と話してくれました。

情熱と行動力を感じる話を聴かせてもらいました。地元の経営者は「まるで経営の授業を受けているようでした。勉強になりました」「凄い分かりやすく、人材確保と社長の役割の話をしてくれたので感動しました」などの感想を聞かせてくれました。

また県内で運送会社を経営している友人の社長からも、賃上げに関しての話を聴かせてもらいました。

一般質問

「私の会社は運輸業界からすると小規模な会社です。光熱費や必要経費などが上昇していることで会社の利益を圧迫しています。しかし会社は社員の生活を支えているので、物価上昇の影響を受けている社員の生活を何としても守らなければなりません。

そのために、今春は社員の給与を上げたいと思っていたのですが、そのためには原資を生み出す必要がありました。当たり前のことですが、原資は売り上げから必要経費を差し引いて、そこから人件費を捻出しています。社員の給与を上げるためには、売り上げを増やす以外にないのです。そこで今春、賃上げをするために主要な取引先と交渉を続けました。

結果として、大手インターネット通販の会社、テレビ局など数社が、私の思いと要望に理解を示してくれ値上げ交渉に応じてくれたのです。合計すると、毎月、数千万円の売り上げ増加につながったので、増加分を全て賃上げの原資に引き当て、全社員の給与を引き上げることができました。

社員の年齢や成果などによって賃上げ額は異なりますが、平均して月1万円の賃上げをすることができました。当社は夏と冬に賞与も支給していますから、数十万円の賃上げを達成することになります」という話でした。

「よく大手取引先が値上げ交渉に応じてくれましたね。社長の交渉力と熱意は凄いと思います」と伝えたところ、「私が今春のためのだけに交渉をしてきたわけではありません」と前置きしたうえで、取引先が値上げに応じてくれた理由を説明してくれました。

「交渉が成功した要因は、日頃から良好なつきあいをしていることが一つ。値上げ交渉は突然、始めたわけではなく数年間継続して価格交渉をしていたこと。そして私の会社の仕事の品質が同業他社よりも高いことにあります。

交渉で最も嫌なことは『値上げを要望してくるのであれば、御社との契約は取りやめにして他社と契約します』と言われることです。こう言われることが怖いので、強く値上げ交渉ができないのです。私の会社は仕事の品質に絶対の自信を持っています。

それは社員の質が高いから実現できたことです。取引先は現場で仕事を見てくれているので、どの会社の社員の仕事が速くてミスが少ないか。要領よく仕事をやり終えて、次の仕事に取り掛かっているのか把握しています。特に大手企業の場合、同時に数社が現場に入っているので、どの会社の社員が質の高い仕事をしているのか理解しています。

私も時々現場に入りますが、当社の社員は一通りの仕事をやり終えても時間内は休憩することはなく、他社の仕事であっても、その現場作業が遅れている場合は言われなくても応援に入ります。

ところが他社の社員は、自分の仕事をやって時間が空いた場合はタバコを吸ったり、同僚と話をする時間に充てているようです。

それが悪いとは思いませんが、全体の仕事の流れや後工程を考えると、自分の会社が受けている部分が終われば後は関係ないとはならないのです。まして早く作業を済ませて次の工程に入れたら、元請けの利益は増えることになります。その増えた利益の一部でも請け負っている会社に分配してもらえることにつながるのです。

当社の社員は、そのことを理解して仕事をしていますから、仕事に対する意識も仕事の品質も違うのです。現場で作業をしている社員も私の考え方、つまり会社の方針を理解してくれているのです。だから社員を誇りに思っていますし、他社に勝てる自信があります。

そのことから仕事から外される心配はなく、自信をもって値上げの交渉を続けられたのです。

こうして値上げの原資は全て人件費として社員の給与に反映させたのです。専務と支店長には、私が『今回の原資は全て社員の給与に引き当てたいので、役員の給与は据え置くことになりますが理解してください』と話しました。

経営陣は、社員が仕事をしてくれているから利益を得ていることを理解していますから、当然、納得してくれました。繰り返しますが、現場の社員、事務の社員、そしてパートさんも全員の給与を上げることができました」と話してくれました。

この社長の話も感銘を受けるもので、改めて「これが社長のやるべき仕事なんだ」と思いました。

質問4:中小企業の賃上げの状況について

県内の中小企業の賃上げの実態は、概ねどのような傾向にありますか。大企業の成果を通じた中小企業の「稼ぐ力」と「賃上げ余力」の向上につながることが必要ですが、まだ弱いのではないかと思っています。県内でも今春の春闘の結果が世間相場を形成し、中小企業の賃金に波及していく傾向にあるのでしょうか。商工労働部長の答弁をお願いいたします。

答弁者:商工労働部長【労働政策課】

本県が昨年度に実施した「県内企業の経営実態調査」によれば、2023年度において、賃金の引上げを行ったと回答した企業は69%でありました。

また、この調査において、2024年度に賃金の引上げを予定していると回答した企業は43%でありました。

賃上げの割合を単純に比較すると25%以上の減少となっていますが、これは、2023年度に賃上げをした企業が7割程度あり、賃上げをすでに実施したとする見方もできます。

その一方で、消費者の買い控えや同業他社との競合の不安から、価格転嫁ができず、賃上げを行うことができないとする企業も見受けられます。

今春の春闘の結果が、どの程度県内中小企業の賃金に波及するかは不透明な部分がございますが、国による支援制度等を広く周知することにより、県内中小企業における賃金の引上げが進むよう取り組んでまいります。

質問5:中小企業の賃上げのための環境づくりについて

「賃上げは社長の仕事」と話している経営者がいますが、中小企業にとって大企業との交渉は難しいことで、思い切った交渉ができる会社は良いのですが、全てがそうとは限りません。そのため県として、中小企業が取引先と価格交渉を行えるための環境作りをして欲しいと思います。

県内企業においても労務費の適切な価格転嫁を進める必要がありますが、中小企業の労働分配率は72.9パーセント(令和5年12月末現在)ですが、今は80パーセントとも推測されています。人件費の比率が高い中小企業は賃上げの余地が少なくなっています。

しかし、昨年から大企業が高い賃上げを主導していることから、中小企業にとって賃上げ分を価格転嫁するハードルが下がっている状況です。答弁では「中小企業の賃金に波及するかは不透明な部分がある」という見解ですが、今こそ、県として、企業に対して生産性向上への支援強化や価格転嫁・取引適正化の推進を促すと共に、サプライチェーン全体の付加価値向上、大企業と中小企業の共存共栄を目指した「パートナーシップ構築宣言」をしてもらうなどの対策を推進して欲しいと思います。商工労働部長の答弁をお願いいたします。

答弁者:商工労働部長【労働政策課】

議員御指摘のとおり、中小企業の賃上げには、下請取引の適正化や県内企業の成長が重要であると認識しております。

下請取引の適正化に関しては、2018年に県と経済産業省との間で、全国で初めてとなる「和歌山県下請中小企業者の取引条件改善に向けた取組に関する連携協定」を締結し、これまで県内事業者へのヒアリングやアンケート調査による実態把握を行ってまいりました。

その調査により、不適正な取引事例を把握した場合には、下請事業者の同意のもと、国に当該情報を提供することで、発注元事業者や業界団体への改善を要請するなど、国と連携し、取引適正化に向けた取組を実施してきたところです。

次に、県内企業の生産性向上などの取組につきましては、これまでも成長段階に応じた支援を行ってきたところでございますが、特にDXを進める必要があるとの考えのもと、2022年度から、「わかやまデジタル革命推進プロジェクト」を開始し、機運醸成から各企業の現状把握、各種講習等による技術の習得、専門家派遣等による導入支援まで一気通貫でのDXの実現を推進してきたところです。

また、「パートナーシップ構築宣言」については、中小企業庁の直近の発表によると、県内の525社が宣言を行っているところでございます。議員御指摘のとおり、「パートナーシップ構築宣言」を推進することは非常に重要であるという認識のもと、昨年度実施した和歌山県事業再構築チャレンジ補助金においても、宣言企業に加点措置を行ってきたところです。

今後もこのような取組を推進し、中小企業の賃上げのための環境づくりに取り組んでまいります。

質問6:最低賃金について

和歌山県の最低賃金は現在929円で、全国では第27位の水準となっています。最低賃金が1,000円を超えている大阪府への人材流出につながっている話も聴きますから、将来の人口減少や人材確保の観点からもこの差を縮小したいところです。

最低賃金を上げる議論に関しては経営側には諸課題があると認識していますが、和歌山県の最低賃金を上げる方向で議論を進めるべきだと思います。

今年の工程ですが、第一回最低賃金審議会が7月9日に開催され、その後は専門部会と特別小委員会が開催され、8月21日には第4回最低賃金審議会が開催され、結論を出すことになります。

今年の最低賃金改定に関して、知事の見解をお聞かせください。

答弁者:知事【労働政策課】

お答え申し上げます。今、片桐議員御指摘のとおりでありまして、昨年度の和歌山県の最低賃金は、40円、これは過去最高の引上げなんですけども、引上げられた上で、今御指摘いただいた929円という水準になっております。

今年度におきましても、今、御指摘いただいたとおりのスケジュールで、和歌山地方最低賃金審議会において、労働者の生計費などを考慮した議論が行われる予定だと聞いております。最低賃金の改定につきましては、労働者の生活が守られるということがまず第一、その上で、一方で、企業においても事業が安定的に継続していけるということで、双方にとって最適な改定になることが望ましいわけでありますけれども、これも今日、片桐議員と議論させていただいた中で、特に今年後半からは、金利のある世界が戻ってまいります。そうなりますと、和歌山の中小企業の経営者の皆さんもリスクを取って投資をして、生産性を上げていただくことによって、できますれば、今、片桐議員が御指摘いただきましたような大阪との差が少しでも縮まるような改定がこれも持続的に行われることを期待したいと考えております。

(まとめ)

和歌山県の経済環境は決して上向いているとは感じません。現役世代の減少と高齢化、コロナ禍の後遺症による私たちの行動の変化などの影響があると思いますが、賃金が上がってこなかったことも原因だと思います。飲食店や商店街では「お客さんが戻らない」「売り上げが増えない」など、厳しい環境にあり「将来への希望が持てない」との声を聴くことは珍しくありません。

企業の賃上げ、中小企業も賃上げ、地元商店街や飲食店にお客さんが戻り、賃上げによる可処分所得の増加が支出へとつながり、地域経済が循環するしくみを県が創り出して欲しいと思います。以上のことを申し上げ一般質問を終ります。ご清聴、ありがとうございました。