平成27年6月定例会一般質問 / 質問内容

1.南紀熊野体験博で根付いた地域振興をどう活かすのかについて

こんにちは。一般質問二日目、本日、四人目となります。よろしくお願いいたします。それでは議長のお許しをいただきましたので、通告に従い一般質問を行います。

最初は「南紀熊野体験博で根付いた地域振興をどう活かすのか」の質問です。

元和歌山県の企画部長であり、南紀熊野体験博実行委員会事務局長であった垣平高男さんが「熊野、癒しから蘇りへ」を発刊しました。サブタイトルには「南紀熊野体験博・回想」と記されています。この本を読むと懐かしくて、そして和歌山県の熊野地域が光っていた頃を思い出しました。

1999年に開催された南紀熊野体験博の時代、スペイン、サンティアゴの道と姉妹道提携を締結し、博覧会の成功と併せて、後に熊野古道を含む紀伊山地の霊場と参詣道の世界遺産登録へと時代は動いていったのです。

21世紀の新しい価値の創造を目指した南紀熊野体験博について触れたいと思います。

和歌山県で開催されたジャパンエキスポ南紀熊野体験博は、和歌山県南部の16市町村、21万ヘクタールを全て会場としたオープンエリア方式の博覧会でした。開催時期は西暦1999年、平成11年4月29日から9月19日までの144日でした。

熊野古道を中心とした地域でオープンエリア型の博覧会という、それまでになかったスタイルの博覧会が南紀熊野体験博でした。人は自然と共生を目指す中で癒しを感じ、心が満たされ、明日を生きるために蘇えることができる。そんなメッセージを和歌山県から全国に発信させました。その結果、その年の流行語大賞に博覧会のテーマであった「癒し」という言葉が選ばれました。

垣平さんはこの著書の中で、「南紀熊野体験博は、熊野の誇りと自信を取り戻す地方からの挑戦だった」。そして「共に博覧会に挑戦し、頑張り通した仲間への感謝のメッセージ」だと記しています。

当時、私も南紀熊野体験博実行委員会委員の一員として、この博覧会に参画させてもらったことで、和歌山県は熊野古道と自然信仰という高い精神レベルを有している、世界に誇れる県であることを認識できました。

早いもので南紀熊野体験博から15年、熊野古道が世界遺産に登録されてから10年の歳月が経過しています。博覧会に携わった人も少なくなってきましたから、私達が発見したことや地域振興のしくみを次の時代に引き継ぐためにも、南紀熊野体験博が築いた地域振興のあり方を議論したいと思います。

初めて南紀熊野体験博覧実行委員会に呼ばれた時、熊野古道の存在は知りませんでしたし、会場のないオープンエリア型の博覧会はどのような仕上げになるのか分かりませんでした。

観光客に来てもらうためには、これまで地域にない新しいものを提供しなければならないと言う発想ではなくて。今、ここにあるものに価値があり、それを発見してもらうために来てもらうという大胆な発想の博覧会でした。私達は、今、ここにあるものは見慣れているから誰も関心がなく、そんなものを見るために観光客は来てくれないという思いがあります。

熊野古道、地域に存在している祭りや行事などは、地元の人にとって存在していることが当たり前のものであり、それが観光資源になるとは思っていませんでしたし、他府県から来てもらえるような地域資源になり得るものだとは思ってもいませんでした。

しかし博覧会を通じて地域再発見をしようという機運が起き、「自分たちの故郷をもう一度見つめなおし、よく知り、愛着を持ち、自信と誇りに変わっていきました」と著者が評価しているように、継続的な地域振興につながる種を巻けたと思います。

また観光は表面的なものを観るだけではなくて、背景に潜む歴史や文化など、精神が癒され満たされることによる満足感を提供できることが大切です。その一つとして市町村イベントや体験型観光があり、既に地域にあり受けついでいるものに参加、または体験してもらうことで、和歌山県が古来より受け継いで現代人も持っている精神性を感じてもらうことを目指しました。

そのため地域に根付いた文化や伝統を活かして地域自らがイベントを企画し、運営することで地域主導の博覧会に仕上げたことが特徴です。そして地域が主体となったことで、博覧会を一過性で終わらせることなく地域に定着させ継続させること。そして地域振興の起爆剤として開催するという思いが込められていました。

今では全国で体験型観光が企画されていますが、体験型観光の基になっているのが南紀熊野体験博の地域イベントなのです。

後の評価として、自分たちで考え、実行し、地域力を高めていった博覧会を和歌山方式と名付けられることになりました。再び垣平さんの言葉を引用すると、「私たちは、この博覧会を通じて芽生えた地域興しの芽を大切に守り、育てていきます。これが新しい博覧会に挑戦した和歌山県のポスト博覧会の基本認識」ということになります。

しかし南紀熊野体験博に携わった職員の皆さんも少しずつ職場を去り、同じく市町村の担当者も地域づくりの第一線から退く時期に差しかかっています。このままでいると、数年も経過すれば、この博覧会で得た地域振興の自信、故郷に対する誇りなどが継承されずに失われてしまうのではないかと危惧するような時代になりました。

当時の実行委員会のリーダー的立場の人は50歳代でしたから、今では県庁の職場にはいませんし、30歳代後半から40歳代の若手、中堅メンバーも今や50歳代に突入しています。

残念なことに個人の経験や人脈をその職場に残すことは難しいものであり、地域振興の形は残せているとしても、精神性を残し継承することは難しいものがあります。

 

そこで質問でさせていただきます。

質問1:南紀熊野体験博でのノウハウ等をこれからの地域振興にどうつなげ、継承していくのか

地方の時代だと言われて久しいのですが、未だに東京一極集中の流れがあるため、地方都市が消滅の危機だと問題提起されるようになりました。市町村が消滅するということは、地方の崩壊へとつながっていく問題になります。和歌山県はこの流れにどう対応すべきか、考える必要があると思います。

南紀熊野体験博が作り上げた地域振興のモデルは、和歌山県として全国に誇れる自信と誇りになったと思っています。ここで言う地域振興とは、地方が育み守ってきた歴史と文化、伝統を、ここで暮らす私達が価値のあるものだと再認識し、地域を守っていくことを目指すことに対して行政が支援するしくみだと考えています。

この実績に基づいたノウハウの継承、当時の関係者が持った自信と誇りを、これからの地域振興にどうつなげていくのか、そして継承していくのか、知事の考えをお聞かせ下さい。

答弁者:知事

南紀熊野体験博は、豊かな自然・歴史・文化の再発掘による新しい魅力の創出と国内外への情報発信、地域づくりへの気運の醸成などを開催意義に掲げ、これまでの常識をうち破るオープンエリア方式を採用した挑戦の博覧会であったと認識しております。

博覧会というものはこういうものだ、こういうふうにするものだと、人はすぐに考えがちでございまして、そこで思考停止をするわけでございます。そういう面をたくさん検討していくなかで、それを熊野の特性から、あの形が最適と考え出し、多くの人々を説得したことはとてもえらいというふうに思います。県庁職員はこうでないといけないというふうに思う次第でございます。

この博覧会において、熊野古道などの地域資源の再発掘と情報発信を行ったことにより、平成16年の「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録に至ったことは、国内のみならず世界から高い評価が得られた証であり、県民の財産として後世につなげていかなければならないと思います。

この博覧会を契機として県全域で地域づくりへの気運が醸成され、自然・歴史・文化にいざなう語り部やほんまもん体験・修学旅行誘致などによる新しい旅のかたちの創出など、博覧会で培ったノウハウが今に継承されております。

これからの地域振興については、博覧会の成果として積み 重ねてきた取組に磨きをかけるとともに、地域を蘇らせる「わがまち元気プロジェクト」の推進や過疎地域の活性化など、今般まとめた「和歌山県まち・ひと・しごと創生総合戦略」により、積極的に取り組んでまいる所存であります。

質問2:和歌山県地域興しのエースとしての熊野古道を活かした取り組みについて

博覧会を終えて実行委員会を去る時、垣平さんが送別会をしてくれたことを思い出します。博覧会に携さわれてやりとげた達成感とこれで終わったという寂寥感、そういったものを感じました。現在、そしてこれから地域振興に携わる職員さんも、仕事を通じてそんな思いを感じられる大切な経験をして欲しいと思います。

さて熊野古道が世界遺産に登録されてから10年が経過しました。時代は癒しから蘇えりへと連なり、熊野古道の持つ力が必要とされていると思います。南紀熊野体験博のエース的存在であった熊野古道を活かした取り組みについてお聞かせ下さい。

世界遺産登録から10年が経過して情報発信力や集客力が落ちることのないよう、これからも熊野古道が和歌山県地域興しのエースとしての魅力を持ち続けるための取り組みについてもお聞かせ下さい。

商工観光労働部長の答弁をお願いいたします。

答弁者:商工観光労働部長

先ず、熊野古道を活かした取組についてですが、熊野古道は、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」のフラッグシップともいうべき資産であり、県ではその価値と魅力を、各種メディアを通じ国内外に積極的に発信してまいりました。

具体的には、熊野古道の魅力を、「癒し」「蘇り」「パワースポット」などのわかりやすいキーワードで提案することで、若い女性を中心に多くの支持を得ました。

そして、このような情報発信により、熊野古道を訪れる観光客数は、国内外ともに飛躍的に伸び、紀伊半島大水害による一時的落ち込みはあったものの、なお増加を続けています。

昨年、世界遺産登録10周年を契機として実施した「和歌山デスティネーションキャンペーン」おいては、「道」を大きなテーマの1つとし、広く発信をした結果、対前年比約108%の観光客が本県を訪れました。中でも、中核地域である田辺市本宮では、語り部の案内数が過去最高であったとうかがっています。

保全についても積極的に取り組んでいます。県では、熊野古道を自らの手で保全するという、国内でもここでしかできない体験「道普請」を、企業のCSR活動や学校の授業などで取り組んでいただいており、現在参加者は、2万人を超える状況となっています。

また、熊野古道を大切にする心を幼少期から養い、将来を担う人材を育成すべく、地元の学校を中心に世界遺産学習を行っており、自主的活動として子ども達による語り部の取組なども行われています。

このように保全と活用の双方について、バランスのとれた取組を進めることで、熊野古道の魅力は益々高まっています。

次に、今後とも魅力を持ち続けるための取組についてですが、先ほど述べたように、熊野古道の魅力を広く発信し、後世に良好な状態で継承する取組は、様々な面で成果が現れており引き続き積極的に推進してまいります。

加えて、コアな熊野古道ファンであるリピーターにも満足していただけるよう、熊野古道の新たな魅力についても開発し、発信していきたいと考えています。