卓球で高校時代に高校三冠を達成した経験のある学生と話をする機会がありました。現在は大学でプレイしていますが、将来は地元に戻って仕事を探し、併せて子ども達に卓球の指導を行いたいと抱負を果たしてくれました。
この時に卓球に関しての話を伺いました。卓球の練習は毎日続ける必要があります。一日でも休むと身体に覚え込ませている技術が飛んでしまうそうです。競技者の卓球のボールのスピードは0.2秒程で自陣のコートに到達します。球筋を見届けてから反応しても対応できません。そこでラケットやフォームなどからも球筋を読むのですが、それ以前に相手を自分のペースに引き込むことを考えてプレイしていることを知りました。
つまり自分が打つ球にスピンを掛けたり、どのコースを狙うなどの戦略を立てます。自分が打ったボールに対して相手はどこに打ち返してくるのかが分かるので、相手が窮屈になるように追って行きます。第一球を打ってからは三つ目のプレイを描いて動いているのです。もっと言うなら、自分の思うように相手のプレイを誘導していくのです。大学生レベル以上になると、相手のプレイに合わせて対応するのではなくて、自分のプレイのペースに相手を合わさせることが勝つための条件です。
つまり強い選手でいるためには、勝ちパターンを日ごろの練習で何度も繰り返して身体に覚え込ませることが必要と成ります。毎日勝ちパターンを繰り返して身体に覚え込ませること。頭ではなくて身体が自然に反応するまでパターン化を繰り返していくのです。頭で考えるのではないため、練習を一日でも休むと身体が忘れて行きます。そんな勝ちパターンを複数身体に覚え込ませることが勝つ秘訣です。そのためには練習を繰り返す以外にありません。国際大会レベルの凄さを知ることができました。
一流の技術や決め技を身に付けるといったレベルではないのです。そんなものを身に付けておくのは当然のことであり、その技術を駆使してどれだけ勝ちパターンを身体に覚え込ませるかの戦いなのです。国際レベルになると技術の差はほとんどなく、勝ちパターンのバリエーションと戦略、そして相手も同じ勝ちパターンを身に付けていることから精神力の勝負になります。
どの競技でも世界のトップレベルの戦いは、精神力の戦いであると聞くことがありますが、その秘密はここにあるような気がします。そのレベルに達する選手の技術、体力は同等であり、勝負を分けるのは試合中に戦略を立てられる頭の良さと、タフな場面でポイントを取れる精神力です。
一流とはこういうものなのです。技術の組み立てをパターン化しているので、ケアレスミスは殆どありません。紙一重を勝ち抜いてチャンピオンになれるのは、毎日の練習を飽きずに執念を持って繰り返してきた選手なのです。
考えてみるとトップレベルの選手の試合において、両者のポイントが大差になることは稀です。大事な一点、苦しい時の一点を勝ち取った選手が勝つような気がします。その結果、諦めてしまうと一方的な展開になる場合もありますが、優勝と二位との差は大事なポイントを握ったかどうかの僅差です。そこは勝つという気力がポイントのように思います。
学生と卓球の話を交わす中で、レベルを飛躍させてトップレベルの世界を想像することができました。日常の中にない話を伺うことは楽しいことです。
さて残念なことは学生生活を終えると、トップクラスの選手であっても実業団チームに行かない限り現役を引退することになることです。日本の場合、多くのスポーツはプロ化されていませんから、世界レベルに達しない以上、競技選手として引退することになります。もったいないことです。
卓球を仕事にしていける選手は殆どなく、この世界で生きていくためにはスター選手になり、スポンサーがついてくれる以外にないのです。日本以外の世界では卓球はプロ化されていて才能が凌ぎを削っていると聞きました。日本のレベルを高めるためにはプロ化の門をもっと開放する必要がありそうです。22歳で現役引退しなければならないことは、競技に必要な競技人口の裾野を拡げることにつながりません。