串本町にある和歌山県水産試験場を訪ねました。和歌山県の水産業は昭和60年度の生産額約500億円をピークに下降傾向にあります。平成21年度は約180億円ですから、半額以下に落ち込んでいます。これは漁業者の高齢化と海洋資源の減少といったことが原因だと考えられています。また遠洋漁業の衰退も原因で、勝浦港の水揚げがピーク時は約150億円だったものが、現在では約80億円になっていることも全体の生産金額の減少につながっています。
また実験現場を見学させてもらいました。興味を引いたのはナマコの養殖でした。親ナマコから幼生を孵化させて育てています。生まれたてのナマコは見えないほどの小ささで、数ヶ月経過すると小さいながらもナマコの姿になっています。ナマコを研究している職員さんがいて説明を聞かせてもらいました。
和歌山県にはナマコを研究した結果がなく、今ここで研究していることが和歌山県の最先端なのです。ナマコは沢山の卵を産みますが、産んだ卵は海流に乗って拡散します。つまり親ナマコがいる場所に卵は落ちないので、違う生息地に辿り着くことになります。これは子孫を残すための知恵で、海に安全な場所はありませんから、卵を遠くに、そして同じ場所ではないところに流すような産卵をしているのです。そのため雌のナマコはお尻を振って、卵があちらこちらに散らばるように産卵していきます。それが生存の確率を高めるための知恵なのです。
ナマコについて教えてもらうと可愛く見えてくるから不思議です。和歌山県産のナマコが安定して収穫でき、付加価値を付けられるような研究を続けて欲しいと思います。
続いて串本町を訪ね田嶋町長と懇談する時間をいただきました。串本町が力を入れているのが、エルトゥールル号の映画作りとラムサール条約の海の保全です。
エルトゥールル号については知っている人も多いと思います。1890年9月16日、エルトゥールル号が暴風雨に遭遇し、串本町沖合で遭難します。この事故によって587名は死亡しましたが、69名は串本町の村人達に助けられました。救助の方法は約19メートル下の海で遭難したトルコ人をロープで括って陸地に引き上げるなど、大変な救助をしているのです。
そして村人達は台風のため漁が出来ないのにも関わらず、非常時の時のために蓄えていた食糧までも遭難者に提供し、介護したのです。そして遭難者の遺体を引き上げて丁重に葬っているのです。
この事件を風化させてはいけないと考え、映画の制作を行おうとしているのです。ただ資金不足で資金が調達でき次第、映画制作に着手することになっています。仮題「エルトゥールル」は映画監督に田中光敏氏、脚本家に小松江里子氏をお迎えし、資金が調達できた段階で制作依頼をすることになっています。
そして、エルトゥールル号の物語は現代にもつながっていることが絆を感じ、感動の物語になっているのです。1985年3月17日、イランイラク戦争が始まった時のことです。イラク大統領のフセインは「今から48時間後に、イラン上空を飛ぶ全ての航空機を打ち落とす」ことを宣言しました。
イランに住んでいた日本人はテヘラン空港に向かいましたが、どの飛行機も満席で乗ることが出来ませんでした。日本政府は現地日本人を救出するための決定ができませんでした。そんな時、2機のトルコ航空の飛行機がテヘラン空港に到着したのです。トルコ航空の飛行機は日本人215名全員を乗せてトルコに向かって飛び立ちました。
タイムリミットの1時間20分前のことでした。何故、トルコ空港が救出に来てくれたのか日本政府もマスコミも知りませんでした。この時、元駐日トルコ大使は「エルトゥールル号の事故に際して日本人がしてくれた献身的な救助活動を、今もトルコの人たちは忘れていません。私も小学生の頃、歴史の教科書で学びました。トルコでは子ども達でさえ、エルトゥールル号のことを知っています。今の日本人が知らないだけです。それでテヘランで困っている日本人を助けようと、トルコ航空機が飛んだのです」。
エルトゥールル号の事故から95年後の日本人が、その時のお礼として救助されたのです。こんな歴史を私達に日本人が忘れてはならないのです。串本町では町をあげてトルコとの友好に努めていますし、田嶋串本町長は、今も毎月、町内にあるトルコ記念碑に献花を行っています。
視察の最終行程は上富田スポーツセンターです。ここでも上富田町長が説明をしてくれました。平成7年に整備を始めたこのセンターは設備が充実した素晴らしい施設になっています。芝のサッカーグラウンドが三面もあり、高校サッカーの大会にも使えるグラウンドとなっています。
最近では平成24年2月のサッカー日本女子代表候補合宿として、なでしこジャパンが合宿を行ったことが記憶に新しいところです。素晴らしいこの施設では今日も子ども達がサッカーや野球を楽しんでいました。この総合型地域スポーツクラブの運営を行っているのは、NPO法人くちくまのクラブです。行政依存型ではなくて住民主導型の運営とスポーツ振興を行っています。
そしてJR朝来駅をクラブハウスとして活用しています。JR朝来駅は無人駅でしたが、町からJRに依頼して、クラブハウスとして活用させてもらっています。駅舎が無人だと監視が行き届かないので困った出来事が発生しますが、ここにクラブハウスを作り、常に管理者がいること、人の交流があることから健全な駅として活気があります。柔軟な発想で生涯学習と生涯スポーツの町を目指している上富田町の取り組みに感心しました。
また上富田町は口熊野マラソンも有名で、和歌山県でただ一つのフルマラソンの日本陸連公認大会となっています。約15,000人の町に、約6,000人の参加者が訪れるマラソン大会として定着し、平成24年に17回目を数えています。和歌山県内にあるこの素晴らしいスポーツ施設は全国に誇れるものです。