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2012年2月9日(土)
ニュース和歌山

行政の監視役である議会の議員が市民の声を盛り込んだ条例を提案し、制定する議員条例。県議会は2005年から実施し、和歌山市議会は現在、初の政策条例制定に向け市民から意見を募っている。全国的に広がりつつある議員条例だが、県内市町村の動きは鈍い。政策条例策定協議会座長の中村協二議員は「より市民に近い議員が政策提案をするのが議会の役割の一つ。市民と議員が一緒に街をつくる機会になれば」と話している。

和歌山市議会は初の制定へ

地方議会の改革が声高に叫ばれる近年、行政の監視だけでなく自ら条例を提案し政策に反映させる議会が全国的に増えている。ただ、市町村が作る条例や計画の不足を補うものが多く、都道府県レベルで広がっているが、市町村レベルではまだまだ少ない。

県議会はこれまで、紀の国森づくり基金や防災に関する議員条例を制定してきた。毎回行っているパブリックコメントの募集は当初、少ないときで2人しか寄せられなかったが、条文化前の初期段階から意見を募集し、県民の意見を反映させる余地を残す工夫を始めたところ応募が増加。09九年の観光に関する条例は36人、11年の歯と口腔に関する条例は174人、昨年のがん対策推進条例は51人から意見が集まった。

中小企業の支援に関する条例案制定に関わる議員の一人、片桐章浩県議は「行政は組織が大きく、地域のニーズを救いきれないことがある。日ごろから市民の声を直接聞いている議員と、行政、市民が一緒に政治に取り組める機会になっている」と話す。

一方、和歌山市議会は初の議員条例「和歌山市みんなでとりくむ災害対策基本条例」制定に向け1月に素案を公表、意見を募っている。議会改革の一環で、昨年6月に本会議のインターネット中継を始め、取り組みの第二弾として条例制定に乗り出し、各会派の11人が議論を重ねてきた。

東日本大震災や台風12号水害で行政主導の防災対策だけでは不十分だったことが分かり、条例案のテーマを防災にした。既に作られている市の地域防災計画は、行政の防災活動を中心に示されているが、条例案は計画に加え、市民や事業者の自助的な防災活動をより明確に打ち出した。市民、事業者、行政の立場を示し、三者が連携して防災に努めるよう啓発する内容になっている。

中村議員は「策定のため議員自身が課題について学ぶことができ、意見を募ることで市民の自治意識も高まるはず」と期待。一方で、同市役所の中堅職員は「議員条例は政策の不足を補うが、現場職員と連携しないと条例だけが先走ってしまう可能性がある」と慎重。ある議員からは「議員が策定した条例は議員自身のチェックが甘くならないか」との声もある。

海南、岩出、紀の川市は議員条例がない。海南市は議員向けの研修会で議会改革の先進地である長野県飯田市から議長を招いて勉強会を開いたが、制定に至っていない。和歌山大学前副学長で地方行政に詳しい堀内秀雄さんは「議員条例は選挙時だけでなく市民の政治参加の質を高める意義がある。採決機関から政策を主体的に実現する立法機関に変革するチャンス」と話している。

みんなでとりくむ災害対策基本条例の素案は、和歌山市役所3階の議会事務局か1階の総務課資料コーナー、市議会ホームページで閲覧でき、2月15日(金)まで意見を受け付ける。早ければ2月議会に提案し、可決されると4月に施行される。